Ethenaは、プロトコル収益によるENA買い戻し案と、初期投資家向けトークン解除方式の再編を発表した。今回の変更は、ENAの潜在的な売り圧力を抑え、Ethenaの事業成長とガバナンストークンの価値を結び付ける試みだ。
ただし、買い戻しは無条件で始まるわけではない。ガバナンス投票の可決に加え、USDe供給量が所定の基準へ到達する必要があるため、短期的な価格上昇と長期的な価値蓄積は分けて考えるべきである。
ENA上昇の背景にある4つの変更
CoinDeskによると、EthenaのガバナンストークンENAは2026年8月27日、暗号資産市場全体の反発と、Ethena Foundationが公表したトークン設計の見直しを材料に上昇した。同記事では、ENAが24時間で23%上昇し、0.17ドルに達したと報じている。
材料となったのは、主に次の4点だ。
- 一部の大口シード投資家が保有するロック中ENAをEthena Foundationが買い取った
- 投資家向けの毎月のトークン解除を終了する方針を示した
- Ethenaの事業収益をENA買い戻しへ振り向ける「Fee Switch」を提案した
- プロトコルの知的財産と経済的利益をEthena Labsの株主ではなく、Foundationとエコシステムへ帰属させる枠組みを示した
従来のENAには、初期投資家の継続的なアンロックによる供給増加と、USDeなどの事業が成長しても、その利益がENA保有者へどう還元されるのか分かりにくいという課題があった。今回の再編は、その両方へ同時に対応しようとするものだ。
初期投資家のロック中ENAを買い取った理由
Ethena Foundationは、過去9カ月間にENAを売却した一部の主要シード投資家から、残っていたロック中トークンを買い取ったと説明している。対象投資家、取得数量、取引金額は公表されていないため、実際にどの程度の潜在供給が取り除かれたかは確認できない。
重要なのは、Foundationが市場でENAを無差別に購入したのではなく、売却実績のある初期投資家が将来受け取る予定だったトークンを相対取引で取得した点だ。これにより、対象投資家から毎月新しいENAが市場へ流入する可能性は低下する。
一方、この措置を通常のトークンバーンと混同してはいけない。Foundationが取得したENAが永久に消滅したとは発表されておらず、取得後の保管先、利用条件、将来の処分方針を継続的に確認する必要がある。投資家にとっては「買い取った」という事実だけでなく、オンチェーンで追跡できる透明性が重要になる。
VC向け月次アンロックはどう変わるのか
Ethena Foundationと主要投資家は、残る当初投資家分のトークンを2026年10月5日から一括で解除し、その後の月次アンロックを終了する方針で合意した。コアチームのENAは対象外で、既存のロックおよびベスティング条件が維持される。
この変更は、将来にわたって毎月発生する供給イベントをなくし、市場が抱える長期的な不透明感を減らす狙いがある。ただし、一括解除は「売却禁止」を意味しない。解除されたENAの保有者が売却すれば、短期間に流通可能な供給が増える可能性もある。
したがって、単純に「アンロック廃止=売り圧力消滅」と評価するのは危険だ。確認すべきなのは、解除日付近の取引所入金、主要ウォレットの移動、ENAの市場流動性、Foundationが取得したトークンの管理方法である。短期的には一括解除の影響、中長期的には月次供給がなくなる効果という、異なる時間軸で判断する必要がある。
ENA買い戻しを行うFee Switchの仕組み
Ethenaのガバナンスフォーラムでは、USDeの流通供給量に連動してプロトコル収益の一部をENA買い戻しへ配分するFee Switch案が公開された。対象事業には、USDe関連事業、ホワイトラベル型ステーブルコイン、発表時点で公開予定とされた新規事業「Ethena X」が含まれる。
提案では、USDe供給量の14日平均が最初の基準である75億ドルへ達すると、プロトコルの総収益から5%を確保する段階へ入る。その確保分のうち、Foundationへ支払われる純収益の95%がENA買い戻しに使われ、残る5%は成長資金へ回される設計だ。USDe供給量に応じた総収益からの確保率は、75億ドルで5%、100億ドルで10%、150億ドルで15%、200億ドルで20%へ上昇する。
ここで注意したいのは、「プロトコル収益の95%を直ちに買い戻す」という意味ではないことだ。まず供給量に応じた一定割合を総収益から確保し、その枠内でFoundationに帰属する純収益の95%を買い戻しへ使う。発表時点ではUSDe供給量が最初の基準を下回っており、投票が可決されても条件到達までは買い戻しが発生しない。
また、買い戻しはENA価格を保証する制度ではない。購入量はEthenaの収益、USDe供給量、ENAの市場価格に左右される。実施後は、購入額、取得数量、平均取得価格、取引ハッシュ、保有またはバーンの方針を透明性ダッシュボードで確認することが欠かせない。
USDeの成長とENA価値蓄積の関係
Ethenaの中核商品USDeは、暗号資産の現物とデリバティブのポジションなどを組み合わせ、デルタニュートラルに近い形で価値の安定を目指す合成ドルだ。sUSDe保有者へのリターンは、デリバティブ市場のファンディング収益など、Ethenaが利用する収益源の状況に影響される。
CoinDeskは、USDe供給量が2025年10月の約150億ドルから、2026年8月時点で50億ドル未満へ縮小したと報じた。暗号資産市場が冷え込むとファンディング収益が低下し、USDeやsUSDeの魅力にも影響が及ぶ。そのためEthenaは、FalconXを通じた機関向け過剰担保融資や、ホワイトラベル型ステーブルコインなど、収益源の多様化を進めている。
Fee SwitchはUSDeの規模が回復するほどENA買い戻しが強まる構造だが、買い戻しへ収益を回し過ぎると、sUSDeの利回り、パートナー報酬、成長投資へ使える資金が減る可能性がある。EthenaのRisk Committeeでも、ENAへの価値還元とUSDeの競争力を両立できるかが主要な検討項目になっている。
ENA保有者にとって望ましいのは、価格上昇だけでなく、USDe供給量、プロトコル収益、準備資産、sUSDeの競争力が持続的に改善することだ。買い戻しがUSDeの成長を阻害すれば、長期的にはENAの価値蓄積基盤そのものが弱くなる。
投資家が今後確認すべきポイント
まず確認したいのは、Snapshot上の投票結果と最終的な実装内容だ。ガバナンスフォーラムへの提案掲載は、買い戻しの実行開始を意味しない。投票可決後も、USDe供給量の条件、計測期間、収益の定義、購入方法、買い戻したENAの扱いを確認する必要がある。
次に、一括解除される投資家分ENAのオンチェーン動向が重要だ。月次アンロックが終了しても、解除済みトークンが取引所へ移動すれば短期的な供給圧力になり得る。反対に、長期保有が続けば、継続的な月次解除をなくした効果が現れやすい。
さらに、Ethena FoundationとEthena LabsのMaster Framework Agreementにも注目したい。発表では、主要な知的財産とプロトコルの経済的利益をFoundationおよびエコシステムへ帰属させる方向が示されたが、正式文書は後日公開予定とされている。ENA保有者の権利、Labs株主との関係、将来の事業売却時の利益配分は、公開後の契約内容で判断すべきだ。
最後に、USDeそのもののリスクも変わらない。Ethenaにはデリバティブ取引所への依存、カストディ、担保資産、ファンディング環境、スマートコントラクト、規制など複数のリスクがある。ENAのトークノミクス改善だけで、これらが解消されるわけではない。
まとめ
Ethenaの今回の改革は、初期投資家による潜在的な売り圧力を整理し、プロトコルの成長をENAへ還元する経路を明確にしようとする包括的な変更だ。特に、USDe供給量と連動する買い戻し案は、ENAを単なるガバナンストークンから、事業収益との接点を持つ資産へ近づける可能性がある。
一方、買い戻しは投票と供給量条件を満たすまで始まらず、一括アンロックには短期的な供給増加リスクもある。読者は価格変動だけを追うのではなく、投票結果、USDe供給量、実際の買い戻し取引、解除済みENAの移動、正式なFramework Agreementを確認しながら評価する必要がある。





