欧州連合(EU)の暗号資産規制「MiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)」の見直しプロセスが本格化するなか、業界の主要プレイヤーが相次いで意見書を提出しています。
米The Blockが2026年10月1日に報じたところによると、分散型永久先物(perps)取引所HyperliquidのポリシーグループはperpsをMiFID II(第二次金融商品市場指令)の枠組みで扱うことを求め、ステーブルコイン発行大手のCircleはMiCAが定めるステーブルコイン準備金の「銀行預金下限(bank deposit floor)」の見直しを欧州委員会に要請しました。本記事ではこの2つの論点を整理し、DEX・DeFi利用者への影響を解説します。
MiCA見直しとは何か
MiCAはEUで2023年に成立し、暗号資産に関する包括的な規制枠組みとして段階的に適用が進んできました。ステーブルコイン(電子マネートークン=EMT、資産参照トークン=ART)に関する規定は2024年6月から、暗号資産サービスプロバイダー(CASP)に関する規定は2024年12月末から適用されています。
規制には通常、施行後に運用実態を踏まえて見直す「レビュー条項」が設けられます。MiCAも例外ではなく、欧州委員会が市場参加者や関係当局から意見を募り、必要に応じて改正案を提示する段階に入っています。今回のHyperliquidとCircleの意見書提出は、この見直しプロセスに対するロビー活動の一環と位置付けられます。
HyperliquidがperpsのMiFID II適用を求める理由
Hyperliquidは独自のレイヤー1ブロックチェーン上で稼働するオンチェーン永久先物取引所で、デリバティブ取引高で業界上位に位置するプロジェクトです。同プロジェクトのポリシーセンターは、永久先物(perps)を暗号資産固有の枠組みではなく、既存の金融商品規制であるMiFID IIのデリバティブ規制の下で扱うことを提案しています。
perpsは満期を持たない先物契約で、資金調達率(ファンディングレート)を通じて価格を現物に収斂させる仕組みを持ちます。経済的な性質としては伝統的なデリバティブに近く、MiFID IIの既存ルールに統合すれば、別個の暗号資産デリバティブ規制を新設するよりも法的な予見可能性が高まるという主張です。
この立場の背景には、MiCA自体がデリバティブを対象外としている点があります。MiCAは主に現物の暗号資産とステーブルコインを規律するため、perpsのようなデリバティブは既存のMiFID IIの射程に入るか、規制の空白に置かれるかという論点が残っていました。Hyperliquidはこれを明確にMiFID IIへ寄せることで、欧州市場での事業の法的基盤を固めたい狙いがあると考えられます。
Circleが問題視する「銀行預金下限」
一方、USDC発行元のCircleは、MiCAがステーブルコイン準備金に課す銀行預金の下限規制の緩和を求めています。
MiCAでは、電子マネートークン(EMT)の発行者に対し、準備資産の一定割合を信用機関(銀行)への預金として保有することを義務付けています。具体的には、通常のEMTで準備金の少なくとも30%、取引量などの基準で「重要(significant)」と分類されたEMTでは少なくとも60%を銀行預金として保有する必要があるとされています。
Circleはこの銀行預金比率が過度に高いと主張しています。多額の資金を少数の銀行に集中させることは、むしろ銀行破綻時のカウンターパーティリスクを高めるという論点です。実際、2023年3月のシリコンバレー銀行(SVB)破綻の際には、CircleがSVBに預けていたUSDC準備金の一部が一時的に引き出せなくなり、USDCが一時的にドルペッグを割り込む事態が発生しました。この経験から、準備金を短期米国債などに分散する方が安全だという立場をCircleは取っています。
DEX・DeFi利用者への影響
これらの規制論点は、一見すると欧州の制度設計の話に見えますが、DEXやDeFiを利用する日本のユーザーにも間接的な影響があります。
まず、perpsの規制枠組みが明確化されれば、Hyperliquidのようなオンチェーンデリバティブ取引所が欧州でより安定的に事業を展開できる可能性があります。規制の予見可能性が高まることは、プロジェクトの長期的な存続やサービス継続性にとってプラス材料です。
ステーブルコインの準備金規制については、USDCの安定性や流動性に関わります。USDCは多くのDEXやレンディングプロトコルで基軸的に使われており、その準備金構成の健全性はDeFiエコシステム全体の信頼性に直結します。準備金の分散投資が認められるかどうかは、ステーブルコインの耐久性を左右する論点です。
ただし、業界側の要請がそのまま規制に反映されるとは限りません。規制当局は利用者保護や金融安定の観点から慎重な姿勢を取ることも多く、見直しの最終的な方向性は現時点では未確定です。
規制動向を追う際の注意点
暗号資産規制は各法域で異なり、EUのMiCA、米国の証券規制、日本の資金決済法・金融商品取引法など、それぞれ別個の枠組みで運用されています。あるプロジェクトが特定の法域で「規制準拠」であっても、他の法域で同じ扱いを受けるとは限りません。
特にperpsのようなデリバティブは、日本では一般的に厳しい規制対象となっており、国内居住者が海外のオンチェーンデリバティブ取引所を利用する場合は、適用される法令や税務上の取り扱いを自身で確認する必要があります。
また、業界団体やプロジェクトが提出する意見書は、あくまでそのプレイヤーの立場を反映したものであり、規制当局の最終判断ではありません。一次情報として欧州委員会やESMA(欧州証券市場監督局)の公式発表を確認することが重要です。
まとめ
欧州委員会のMiCA見直しにおいて、Hyperliquidは永久先物(perps)をMiFID IIの枠組みで扱うことを、CircleはMiCAのステーブルコイン準備金に関する銀行預金下限の緩和を求めています。
前者はデリバティブ規制の法的明確化を、後者は準備金の集中リスク軽減を狙ったものです。いずれも業界側の要請段階であり、規制に反映されるかは今後の見直しプロセス次第です。DEX・DeFi利用者としては、こうした規制動向がステーブルコインの安定性やデリバティブ取引所の事業継続性に影響し得る点を踏まえ、公式の一次情報を追っていくことが大切です。





