MANTRA Chainは、EVMモジュールで脆弱性が悪用されたことを受け、資産移動を防ぐためメインネットを意図的に停止した。ネイティブトークンMANTRAは一時18%超下落し、過去最安値を更新した。
公式発表では被害は限定され、第三者ユーザーや取引所、提携先の資金に直接的な影響はなかったとされる。ただし、2026年8月22日時点でメインネットは停止中であり、入出金やブリッジ利用を急ぐべき状況ではない。
MANTRAトークン急落とチェーン停止の経緯
CoinDeskは2026年8月21日、MANTRA Chainのブロック生成停止と前後して、MANTRAトークンが24時間高値から18%超下落したと報じた。価格は一時0.004126ドルに達し、過去最安値を更新したという。
重要なのは、トークン価格の下落とネットワーク停止を分けて理解することだ。市場ではセキュリティ事故への警戒から売りが膨らむ一方、MANTRA Chain側は被害拡大を防ぐため、バリデーター、公開エンドポイント、Migrateブリッジ運用、MANTRA管理下のIBCリレーを停止した。
MANTRAの公式ステータスページによると、メインネット「mantra-1」はブロック17,449,398で停止している。停止前の状態については完全なスナップショットが取得されており、修正版を導入したうえでバリデーターを協調再起動する計画だ。
停止中は、ウォレット画面に残高が表示されていても、通常どおり送金できるとは限らない。また、UpbitやBithumbなど一部の中央集権型取引所では、ネットワーク障害に対応して入出金が停止されたと報じられている。取引所内の売買が継続していても、オンチェーンへの出庫や外部からの入庫は別扱いである点に注意が必要だ。
何が悪用されたのか
MANTRAは初期調査後、問題の根本原因を特定し、EVMモジュールで使われている脆弱性が悪用されたと説明した。影響は封じ込め前に二つのウォレットアドレスへ及んだものの、第三者ユーザー、取引所、提携先の資金は直接的な被害を受けていないとしている。
一方、詳細な攻撃手順や対象トランザクションを網羅した最終的な事後報告書は、記事執筆時点では公開されていない。したがって、過去に開示されたCosmos EVMの別の脆弱性と今回の事案を、根拠なく同一視することは避けるべきだ。
Cosmos EVMでは2026年3月、ICS20プリコンパイルに関する重大な脆弱性「ASA-2026-002」が公開されている。これは、ネストされたEVM実行で状態更新が外側の実行コンテキストへ正しく反映されず、条件次第で同じトークン残高が単一トランザクション内で繰り返し利用され得る問題だった。修正版はCosmos EVM v0.6.0で提供されている。
ただし、MANTRAの現在の公式ステータスは今回の問題を「EVMモジュールで悪用された脆弱性」と説明するにとどめている。ASA-2026-002やICS20プリコンパイルが今回の直接原因だったと断定できる公式情報は、現段階では確認できない。
なぜネットワーク全体を止めたのか
ブロックチェーンの停止は重大な措置だが、今回のMANTRA Chainでは、攻撃者による追加の資産移動や状態変更を防ぐ緊急対応として実施された。チェーンを稼働させたまま個別コントラクトだけを制限する方法では、脆弱性の影響範囲が確定していない段階で十分な封じ込めができない可能性がある。
MANTRAは修正版v8.4.0を準備し、メインネットの状態を再現した内部環境で、エンドツーエンドのアップグレード試験を繰り返したと説明している。公式情報によれば、このアップグレードに状態移行やモジュール変更は含まれず、脆弱性の修正と追加のセキュリティ強化が中心となる。
再開ではMANTRA運営のバリデーターだけでなく、外部のバリデーターパートナーも同じ修正版へ移行する必要がある。少数のノードだけで急いで再始動すると、ネットワーク分岐や不安定な合意形成を招くおそれがあるため、十分なバリデーター参加率を確認してから一斉に再開する方針だ。
この対応は被害拡大防止という面では合理的だが、利用者が自由に取引できない時間が発生するという可用性上の問題も示す。分散型ネットワークを評価するときは、スマートコントラクトの安全性だけでなく、緊急停止の判断主体、バリデーター構成、再起動手順も確認する必要がある。
MANTRA ChainとRWA市場への影響
MANTRA Chainは、現実資産をブロックチェーン上で扱うRWA分野に特化したEVM互換レイヤー1だ。公式資料では、SolidityスマートコントラクトとCosmos SDKモジュールを併用でき、MANTRAトークンは委任型プルーフ・オブ・ステークによるネットワーク保護に使用される。
2026年3月には、旧OMからMANTRAへのティッカー変更と非希薄化型の分割が実施された。交換比率は1 OMに対して4 MANTRAで、MANTRA Chain上の保有者には自動的に反映された。このため、2025年までの記事で使われるOMと、現在のMANTRAは表記単位が異なる。過去価格と現在価格を比較する際は、分割前後の単位を混同してはならない。
RWAでは、トークン化された証券やファンド、債権などを扱う可能性があるため、ネットワークの停止は単なる暗号資産送金の遅延にとどまらない。発行体、カストディ事業者、取引所、ブリッジ、インデクサーが同じ障害対応手順を共有できるかが重要になる。
今回の事案で直ちにMANTRAのRWA事業全体が破綻したと判断する根拠はない。一方で、機関投資家や事業者が今後確認すべき項目は増えた。最終的な事後報告書、外部監査の有無、影響を受けたアドレスとトランザクション、パッチの公開内容、バリデーター再開率、IBCやブリッジの安全確認が主要な評価材料となる。
DEX・DeFi利用者が今すぐ確認すべきこと
MANTRA Chain上のDEXやDeFiを利用している場合、まず公式ステータスページでメインネット、公開RPC、バリデーター、ブリッジ、IBCリレーの状態を確認したい。プロジェクトの公式ドキュメントにRPCが掲載されていても、障害中に利用可能であることを保証するものではない。
次に、利用している取引所やウォレットの告知を個別に確認する。取引所内でMANTRAを売買できても、MANTRA Chain経由の入出金が停止されている場合がある。入出金の再開前に別ネットワーク宛てのアドレスへ送ろうとしたり、対応していないトークン規格を選んだりすると、資産を失う原因になる。
オンチェーンでポジションを保有している場合は、次の情報を記録しておくとよい。
- 使用したウォレットアドレス
- 利用中のDEX、レンディング、ステーキングサービス名
- 停止前に確認できた残高とポジション
- 未完了のトランザクションハッシュ
- 取引所への入出金申請番号
MANTRA Zone、MANTRA Finance、MANTRA DEXなど、名称が似ていてもサービスごとに運営主体や復旧条件が異なる可能性がある。チェーンが再開しても、すべてのフロントエンド、ブリッジ、取引所入出金が同時に再開するとは限らない。
復旧を判断するためのチェックポイント
「チェーン再開」という発表だけで、直ちに通常利用へ戻すのは慎重さを欠く。最初に公式ステータスでバリデーターと公開エンドポイントが正常化したことを確認し、次にMANTRA Scanなどのエクスプローラーで新しいブロックが継続して生成されているかを見る必要がある。
さらに、MigrateブリッジやIBCリレーの復旧状況、利用する中央集権型取引所の入出金再開、DEXの価格フィードと流動性も別々に確認する。チェーン再始動直後は、古いRPC情報、停止中に滞留した注文、裁定取引の集中などによって、画面表示と実際の約定条件が一致しない可能性がある。
少額のテスト送金が可能になった場合も、公式に指定されたチェーンIDとトークンを確認する。MANTRAメインネットのFull Chain IDは「mantra-1」、EVM Chain IDは「5888」である。Dukongテストネットとは接続先が異なるため、ウォレットへRPCを手動設定している利用者は特に注意したい。
また、障害時には「資金を回収する」「ウォレットを再同期する」と称した偽サポートが現れやすい。シードフレーズや秘密鍵の入力、未知のコントラクトへの承認、非公式サイトへのウォレット接続を求められても応じてはならない。正規サポートが秘密鍵を要求することはない。
まとめ
MANTRA Chainは、EVMモジュールの脆弱性悪用を受け、追加被害を防ぐためネットワークを停止した。MANTRAトークンは一時18%超下落して過去最安値を記録したが、公式発表では第三者ユーザー、取引所、提携先の資金に直接的な被害はなく、影響は限定的とされている。
2026年8月22日時点では、修正版v8.4.0の試験とバリデーター間の調整が進められているものの、メインネットはブロック17,449,398で停止中だ。利用者はチェーンの再開、ブリッジとIBCの正常化、取引所の入出金再開をそれぞれ確認し、公式な事後報告が出るまでは技術的な原因を断定しないことが重要である。





