MoonPayは2026年8月27日、AI向けウォレット基盤「PayBox」にSolanaのレンディングプロトコル「Kamino」を統合した。 これにより対象ユーザーは、ClaudeやChatGPTとの会話を通じて暗号資産の供給や担保付き借入を指示できる。 ただし、AIが融資を判断してくれる新商品ではない。Kaminoの既存機能を自然言語で操作するためのインターフェースであり、清算やスマートコントラクトなどDeFi固有のリスクは残る。
MoonPayがKaminoをPayBoxへ統合
MoonPayの新しい連携は、同社のAIエージェント向けウォレット「PayBox」から、Solana上のレンディングプロトコルKaminoを利用できるようにするものだ。CoinDeskによると、対象ユーザーはClaudeまたはChatGPTへ指示し、保有トークンをKaminoへ供給したり、暗号資産を担保としてUSDCを借りたりできる。
例えば、従来はKaminoの画面を開き、対象マーケットや資産、金額を選択し、ウォレットでトランザクションを確認する必要があった。PayBoxでは「保有しているトークンの一部をKaminoへ供給したい」「担保を使ってUSDCを借りたい」といった会話から操作を始められる。
重要なのは、この統合によってMoonPayが独自の融資商品を提供するわけではない点だ。資産の供給、借入条件、担保管理、清算といった中核処理はKaminoのレンディング市場で行われる。PayBoxとAIは、その操作窓口として機能する。
PayBoxとAIエージェントの役割
PayBoxは、AIエージェントがオンチェーン取引を実行するためのノンカストディアル型ウォレット基盤として位置付けられている。MoonPayの公式情報では、MoonPay CLIを通じてローカルウォレット、トークン交換、送金、ブリッジ、マーケットデータ、法定通貨のオンランプ・オフランプなどをAIから利用できる。
MoonPay CLIはMCP(Model Context Protocol)サーバーとしても動作する。MCPは、ClaudeなどのAIクライアントが外部ツールを共通形式で呼び出すための仕組みだ。AIがユーザーの文章を解釈し、MoonPay側の対応ツールを選び、最終的なオンチェーントランザクションを構成する。
今回Kaminoが追加されたことで、AIエージェントが扱える範囲は、決済やトークン交換から担保付き信用へ広がった。ただし、AIがユーザーの信用を審査するわけではない。Kaminoの借入は、銀行融資のような信用情報ではなく、オンチェーンで預けた暗号資産を担保として成立する。
Kaminoで実行できる貸付と借入
Kaminoの公開APIでは、Kamino Lendの主要機能として、レンディング市場への資産供給と、担保に対する借入が案内されている。資産を供給する利用者は市場へ流動性を提供し、その市場の条件に応じた利回りを受け取る。一方、借り手は対応資産を担保として預け、許可された範囲内で別の資産を借りる。
PayBox経由の代表的な利用例は次の通りだ。
- SOLや対応トークンをKaminoの市場へ供給する
- 供給した資産を担保として有効化する
- 担保に対してUSDCを借りる
- 既存の供給残高や借入ポジションを確認する
- 借入資産を返済し、担保を引き出す
実際に利用できる資産やマーケットは、Kamino側の対応状況とPayBox側の提供範囲に左右される。自然言語で指示できても、Kaminoに存在しない市場を作成したり、プロトコルの担保条件を回避したりすることはできない。
また、供給利率や借入利率は固定とは限らない。利用前にはAIの説明だけに頼らず、対象マーケット、供給資産、借入資産、金利表示、担保設定を確認する必要がある。
取引承認と自動実行の違い
CoinDeskが報じた仕組みでは、利用者は各トランザクションをパスキーで承認する方法と、事前に設定した制限内でAIに自動実行を許可する方法を選べる。
初めて利用する場合は、トランザクションごとの承認が適している。AIが作成した処理について、資産の種類、金額、供給か借入か、利用するプロトコル、ウォレットを確認してから署名できるためだ。特に「預ける」と「担保として有効化する」、「引き出す」と「借りる」は経済的な意味が異なる。
自動実行を使う場合は、許可範囲を狭く設定する必要がある。実用上は、対象資産、1回当たりの上限、累計上限、利用可能なプロトコル、借入の可否を分けて考えるべきだ。AIへの曖昧な指示や、外部コンテンツに含まれる不正な命令が、意図しない操作につながる可能性も無視できない。
MoonPayはウォレットの秘密鍵について、ローカルで暗号化され、利用者の端末外へ出ない構成を案内している。しかし、鍵がローカルにあることと、AIへ与えた実行権限が安全であることは別問題だ。自動化する場合も、権限管理と取引履歴の監視が必要になる。
AIを使っても清算リスクは消えない
Kaminoの借入では、担保価値に対する債務の比率が重要になる。担保価格が下落したり、借入資産の価格が相対的に上昇したりすると、ポジションが清算条件へ近づく。Kaminoの公式リスク文書でも、ローンは各市場に設定された清算基準へ達すると清算可能になると説明されている。
例えば、SOLを担保にUSDCを借りた後でSOL価格が下落すると、担保価値が減少する。AIが会話形式でポジションを作成しても、この価格変動は防げない。清算が実行されれば、担保の一部が処分され、利用者が想定していた保有戦略が崩れる可能性がある。
ほかにも、Kaminoのスマートコントラクト、価格オラクル、Solanaネットワーク、流動性、ウォレット権限に関するリスクがある。供給利回りが表示されていても、元本が法定通貨建てで保証されるわけではない。借入後に別のDeFiプロトコルやDEXで運用すれば、Jupiter、Raydium、Orcaなど利用先固有のリスクも加わる。
AIはポジション確認や操作の補助には使えるが、リスクそのものを引き受ける主体ではない。損失や清算の結果はウォレット所有者に帰属する。
利用前に確認したい実践チェックリスト
PayBoxとKaminoを試す場合は、最初から大きな金額や広い自動実行権限を与えないことが重要だ。最低限、次の項目を確認したい。
- MoonPayとKaminoの公式画面・公式ドキュメントから接続する
- AIが選択したウォレットとSolanaアドレスが正しいか確認する
- 供給資産、担保資産、借入資産を別々に確認する
- 対象となるKaminoマーケットと現在の条件を確認する
- 借入後の担保余力と清算条件を確認する
- 署名前にトランザクションの種類と金額を読み直す
- 自動実行を使う場合は対象資産と金額に上限を設ける
- 返済と担保引き出しの手順も事前に確認する
AIへは「できるだけ運用して」のような曖昧な依頼ではなく、「実行前に供給資産、金額、マーケット、想定されるリスクを提示し、承認を待つ」と具体的に指示する方が安全だ。
対象ユーザーや利用可能地域には制限があり得るため、PayBox上で機能が表示されるか、本人確認や地域条件を満たしているかも確認する必要がある。提供されていない機能を、非公式ツールや不明なリンクで代替すべきではない。
まとめ
MoonPayとKaminoの統合は、Solana DeFiの貸付・借入をClaudeやChatGPTから操作できるようにする取り組みだ。PayBoxがウォレットとAIの接点になり、Kaminoが実際のレンディング市場、担保管理、借入処理を担う。
自然言語による操作は、DeFiの複雑な画面を扱う負担を軽減する可能性がある。一方で、AIインターフェースは清算、価格変動、スマートコントラクト、権限管理といったリスクをなくさない。
実用上は、各取引を個別承認し、小さな範囲から試す方法が堅実だ。自動実行を選ぶ場合も、資産、金額、プロトコル、借入権限を限定し、Kamino上のポジションを定期的に確認する必要がある。





