トークン化資産の利用実態は、DeFiのTVLだけでは正確に測れない。ホワイトリスト内で保有される商品や、取引所・カストディ口座で担保として働く資産が集計から漏れるためだ。
CoinDeskの寄稿記事は、利用可能な資産とオフチェーン担保まで考慮すれば、RWAの実質的な稼働率は単純な集計より高く、20%に近い可能性があると論じている。ただし、重要なのは比率そのものより、何を分母・分子に含めたかを確認することである。
RWAの利用率が統計ごとに違う理由
トークン化された現実資産(RWA)がDeFiでどの程度使われているかについて、2026年には「1%未満」「7%」「11.7%」「20%前後」と異なる推計が示されている。数字が食い違う最大の理由は、各調査が同じ市場を測っていないことだ。
CoinDeskのMatthew Fisher氏によると、1%未満という推計は、BlackRockのBUIDL、CircleのUSYC、Franklin TempletonのBENJIという一部のトークン化マネー・マーケット・ファンドを対象にしたものだ。一方、対象商品を広げたDeFiLlamaベースの集計では11.7%、CoinSharesの集計額とRWA.xyzの市場規模を比較する方法では約19%になるという。
ここで注意したいのは、「発行残高」と「DeFiで運用されている金額」が別の概念である点だ。発行残高には、長期保有を前提とする商品、移転制限のある証券、スマートコントラクトに預けられていない取引所担保も含まれる。一方、一般的なTVL集計が捉えるのは、公開されたコントラクト内で確認できる資産が中心となる。
したがって、単一の利用率だけを見て「RWAは使われていない」と結論づけるのは早い。比較時には、対象資産、対象チェーン、担保の定義、カストディ口座の扱いをそろえる必要がある。
分母に含めるべきでない資産がある
CoinDesk記事では、パブリックチェーン上のトークン化RWAのうち、約47%がプライベートクレジットだとするBernsteinの調査を紹介している。プライベートクレジットは、従来市場でも頻繁に売買される商品ではない。トークン化しても、契約上の満期、償還日、投資家資格が直ちに変わるわけではないため、すべてを「自由に動くはずの資産」として数えると評価が歪む。
ApolloのACREDは、その難しさを示す具体例だ。ACREDはSecuritizeによってトークン化されたプライベートクレジット商品で、Morpho、Gauntlet、Polygonを組み合わせたオンチェーン運用が実装された。Morphoは、ACREDを利用するレバレッジ戦略を、プライベートクレジットファンドをオンチェーン構造商品で利用する事例として紹介している。
しかし、スマートコントラクトへ接続できることと、いつでも効率よく解約できることは同義ではない。原資産の償還頻度が低ければ、借り入れと再投資を繰り返すループ戦略を解消する際にも時間がかかる。これはプロトコルの不具合ではなく、数秒で決済されるDeFi市場と、月次・四半期単位で資金が戻る伝統金融商品の期間構造が合っていない問題である。
RWAを比較する際は、総発行額だけでなく、譲渡可能性、償還頻度、投資家制限を確認しなければならない。
利用率が低く見える3つのパターン
トークン化資産の利用率が低く見える状態は、大きく三つに分けられる。
第一は「設計上利用できない」ケースだ。BUIDLやACREDのような規制対象商品では、本人確認、適格投資家要件、移転先のホワイトリスト登録、トランスファーエージェントによる管理が必要になることがある。許可不要のレンディング市場へ自由に送れない場合、DeFiでの組み合わせ可能性は限定される。
第二は「利用できるが保有目的が異なる」ケースだ。機関投資家が短期国債型トークンを購入する理由は、必ずしもDeFiで追加利回りを得るためとは限らない。財務資産として保有する、発行体との関係を構築する、特定チェーンへの展開を促す、といった目的で保有されることもある。この資産を、当初からレンディングや流動性提供を目的として発行された商品と同じ基準で比較するのは適切ではない。
第三は「利用されているがTVLに映らない」ケースだ。BUIDLはCrypto.comやDeribitで担保として受け入れられており、OKX、BlackRock、Standard Charteredも、BUIDLをカストディから移動させず取引担保に利用する枠組みを発表している。この場合、資産は経済的には担保として稼働しているが、公開DeFiコントラクトのTVLには計上されない可能性がある。
BENJIとxStocksが示すオフチェーン担保の実需
Franklin TempletonのBENJIについて、CoinDesk記事はBinanceとの仕組みにより、取引所外で保管しながら担保として利用できる例を挙げている。こうしたオフエクスチェンジ担保は、取引所へ資産を直接移す必要を減らしつつ、保有資産を取引余力に変える仕組みだ。
トークン化株式でも同様の展開が進んでいる。Krakenは2026年7月、SPYx、QQQx、AAPLx、GOOGLx、TSLAx、NVDAxなど10種類のxStocksを、先物・証拠金取引の担保として利用可能にした。公式発表では、対象資産に10~30%のヘアカットと個別の担保上限が設定されるとしている。
これは、トークン化株式の価値が売買時間の拡張だけではないことを示す。保有者は対象のxStocksを売却せず、別のポジションを維持するための担保として使える。ただし、xStocksは原株そのものではなく、利用可能地域や投資家資格も限定される。担保掛目があるため、表示価格の全額が借入余力になるわけでもない。
利用者は「オンチェーンに存在するか」だけでなく、どの事業者が発行し、誰が原資産を保管し、どの法域で利用でき、清算時にどの価格が参照されるかまで確認すべきだ。
本当のボトルネックは償還と決済
暗号資産ネイティブのDeFiでは、ステーブルコインやリキッドステーキングトークンを担保に預け、借り入れた資金で同じ資産を追加購入するループ戦略を短時間で構築できる。十分なDEX流動性があれば、複数の操作を一つのトランザクションにまとめることも可能だ。
一方、RWAは原資産側の決済慣行を引き継ぐ。CoinDesk記事は、T+1などの決済期間を持つ商品では処理を順番に進める必要があり、4倍相当のポジション構築に約8回のループを要する例を示している。ACREDのように償還機会が限定される商品では、ポジションを作ることより、ストレス時に解消することの方が難しい。
この問題を解くには、単にDEXへ流動性プールを設置するだけでは足りない。必要なのは、即時売却を引き受ける専門業者、原資産価格を正確に届けるオラクル、法的に有効な担保権、オンチェーンとカストディ間の決済手順である。
Morphoなどのレンディング基盤はRWA担保市場の構築を進めているが、金利だけを見て利用すると、償還待ち、価格更新の遅延、清算流動性の不足というリスクを見落とす。RWAでは平常時の利回りより、出口の設計が重要になる。
RWAを評価する実用的なチェック項目
個別のトークン化資産やRWA対応DeFiを調べる際は、次の項目を確認したい。
- 発行残高ではなく、送金量、担保利用額、借入残高、償還実績を見る
- BUIDLのようなホワイトリスト型か、許可不要で移転できる資産かを区別する
- Morphoや取引所で担保に使える場合、LTV、ヘアカット、清算条件を確認する
- 原資産の決済日とトークンの償還日を確認する
- DEX流動性だけでなく、発行体による償還やOTC流動性も調べる
- カストディ口座内の担保を、公開コントラクトのTVLと混同しない
- 発行体、カストディアン、オラクル、レンディング市場の依存関係を整理する
たとえばBUIDLを評価するなら、発行残高だけでなく、DeribitやOKXなどで担保として利用できる範囲を見る。ACREDなら、Morphoへの統合に加えて償還条件を確認する。xStocksなら、Krakenの対象地域、担保掛目、担保上限、原株に対する法的権利の違いを読む必要がある。
まとめ
トークン化資産の市場規模と、DeFiで実際に使われている金額は一致しない。プライベートクレジットのように動かないことが前提の商品、規制上の移転制限を持つ商品、カストディ口座内で担保として働く商品が同じ統計に混在しているためだ。
BUIDL、BENJI、ACRED、xStocksの事例は、RWAが単なる発行実験から担保・借り入れ・取引余力へ用途を広げていることを示す。一方で、償還頻度や決済速度がDeFiと合わなければ、オンチェーン化だけで高い資本効率は実現しない。
今後見るべき指標は、トークン化された総額だけではない。実際の担保利用額、借入残高、清算可能な流動性、そして資産を現金へ戻すまでの時間である。RWA市場の成熟度は、発行のニュースよりも「使えて、必要なときに退出できるか」で判断すべきだ。





