安定した価値を持つステーブルコイン市場に新たな動きです。Open Standardが主要企業の後援のもと「Open USD」を発表し、既存のステーブルコイン、特にCircleのUSDCに挑戦しています。この新しいステーブルコインは、パートナーが準備資産の収益を保持できる仕組みを導入し、発行体中心のビジネスモデルに変革をもたらす可能性を秘めています。
Open USDの登場:既存ステーブルコインへの挑戦
2026年6月30日、ステーブルコイン市場に新たなプレイヤー「Open USD」が発表されました。これはOpen Standard社によって立ち上げられたデジタルドルで、Stripe、Coinbase、Mastercard、Visa、BlackRockといった金融、決済、暗号資産業界の巨人を含む140以上の企業連合によって支援されています。この発表を受けて、既存の主要ステーブルコイン発行体であるCircle(CRCL)の株価は17%以上急落し、市場に大きな衝撃を与えました。
Open USDの最大の特徴は、パートナー企業が準備資産の運用収益を保持できる点、そしてミント手数料を排除する点にあります。これまでのステーブルコインでは、発行体が準備資産から得られる収益を主な収入源としていましたが、Open USDはこのモデルを根本から覆そうとしています。これにより、パートナーはより経済的なインセンティブを持ってステーブルコインの採用と普及を進めることができ、広範なエコシステム構築を促進する可能性があります。
主要企業が支援する「Open Standard」とその狙い
Open Standardは、Stripeが2024年に買収したステーブルコインインフラ企業Bridgeの共同創設者であるZach Abrams氏が主導しています。Abrams氏は、「既存のステーブルコインは大きな強みを持っていますが、大規模に利用するためには、オープンで低コスト、高スループット、広範なアクセス性、そしてビジネスの利益に合致したものが求められます」と述べています。
この発言は、Open USDが単なる新しいステーブルコインではなく、より広範なビジネスユースケースに対応するためのインフラとしての役割を目指していることを示唆しています。Stripe、Coinbase、Mastercard、Visaといった決済大手や、世界最大の資産運用会社であるBlackRockがこのプロジェクトに名を連ねていることは、Open USDが既存の金融システムと暗号資産エコシステムとの橋渡しを強力に推進しようとしていることの証です。これらの企業は、自社の巨大なネットワークと顧客基盤を通じて、Open USDの採用を加速させることでしょう。
Open USDがもたらす新たな経済モデルとUSDCへの影響
Open USDが提案する「パートナーが準備資産収益を保持する」という経済モデルは、ステーブルコイン業界にパラダイムシフトをもたらす可能性があります。従来のモデルでは、ステーブルコインの発行体は準備資産を管理し、その運用から得られる利息収入を主な収益源としていました。例えば、CircleのUSDCもこのモデルを採用しており、その収益性は市場金利の動向に大きく左右されます。
Open USDのモデルは、パートナー企業(例えば、決済プロバイダーやフィンテック企業、銀行など)が自らステーブルコインのミント・償還を行い、その過程で発生する準備資産の運用収益を享受できることを意味します。これにより、パートナーはステーブルコインを積極的に採用・統合する強い動機付けを得ることができます。手数料の排除と収益シェアリングは、より多くの企業を巻き込み、Open USDのエコシステムを急速に拡大させる可能性を秘めています。
この動きは、CircleのUSDCにとって直接的な脅威となります。Circleは、USDCの普及と利用拡大を通じて収益を上げてきましたが、Open USDのような競合が主要なパートナー企業に魅力的な経済的インセンティブを提供することで、USDCから顧客を奪い、市場シェアを低下させる可能性があります。Circleの株価が急落したことは、市場がこの脅威を現実のものとして受け止めていることの表れと言えるでしょう。
拡大するステーブルコイン市場と競争の激化
ステーブルコインは、その誕生以来、主に暗号資産トレーダーの間で利用されてきましたが、近年では国境を越えた送金、マーチャント決済、企業の財務管理など、より広範なメインストリーム金融へとその用途を広げています。市場規模は既に3,000億ドルを超え、シティグループは2030年までに4兆ドル規模にまで成長すると予測しています(CoinDesk報道)。
このような爆発的な成長は、銀行、決済会社、フィンテック企業など、多くの機関が独自のデジタルドル発行に意欲を示す要因となっています。かつてはトークンの発行そのものが競争の焦点でしたが、今や競争はステーブルコインを支える基盤インフラとネットワークの主導権争いへとシフトしています。Open USDは、この新しい競争環境において、強力な企業連合を背景に、透明性と参加型モデルを前面に押し出すことで、市場での優位性を確立しようとしています。
既存のステーブルコイン発行体は、この激化する競争に適応するため、ビジネスモデルの再考や新たなパートナーシップの構築を迫られることになるでしょう。
将来のステーブルコインエコシステム:分散化と参加型モデル
Open USDの登場は、ステーブルコインのエコシステムがより分散化され、参加型へと進化する可能性を示唆しています。これまでは、少数の大手発行体(TetherのUSDTやCircleのUSDCなど)が市場を寡占してきましたが、Open USDのようなオープンなモデルは、より多くの企業がステーブルコインの発行・利用に直接参加することを促します。
この動きは、ステーブルコインの安定性と信頼性を高める上で重要な意味を持ちます。単一の発行体に依存するリスクを軽減し、多様な参加者によるガバナンスと透明性の向上が期待されます。また、各国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)の開発が進む中で、Open USDのような民間主導のステーブルコインが、既存の金融システムとどのように連携し、あるいは競合していくのかも注目される点です。
将来的には、企業が自社のニーズに合わせてステーブルコインをミント・償還し、独自の経済圏を形成する「企業版ステーブルコイン」のようなトレンドも生まれるかもしれません。Open USDは、その第一歩となる可能性を秘めています。
まとめ
Open StandardがStripe、Coinbase、BlackRockをはじめとする強力な企業連合の支援を受けて立ち上げた「Open USD」は、ステーブルコイン市場に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。パートナー企業が準備資産の運用収益を保持できるという革新的な経済モデルは、既存のステーブルコイン発行体、特にCircleのUSDCに直接的な挑戦を突きつけています。
ステーブルコイン市場が拡大し、メインストリーム金融への統合が進む中で、競争の焦点はトークン発行から基盤インフラの主導権争いへと移行しています。Open USDの登場は、より分散化され、参加型のステーブルコインエコシステムの未来を予感させ、今後の市場の動向から目が離せません。





