Compound Financeは、総額5,200万ドルのCompound V4開発計画と新たな経営体制を軸に、機関投資家向けDeFiへ事業の重心を移す。 狙いは、RWA対応、金融機関との連携、信用インフラの整備を通じて、低迷するプロトコルの成長を立て直すことだ。 ただし、予算は一括支出ではなく、成果条件に応じて段階的に解放される設計となっている。
Compoundが機関投資家向け戦略へ転換
CoinDeskは2026年8月17日、分散型レンディングの先駆者であるCompound Financeが経営体制を刷新し、総額5,200万ドルの予算を承認したと報じた。新戦略の中心にあるのは、個人投資家向けの暗号資産レンディングだけに依存せず、金融機関や資産運用会社が利用できるオンチェーン信用市場を構築することだ。
Compoundは2018年にサービスを開始し、暗号資産をスマートコントラクトへ供給して利息を得る仕組みを普及させた代表的なDeFiプロトコルである。銀行や証券会社を介さず、利用者同士の資金需要をプログラムで調整するモデルは、その後のAaveやMorphoを含むレンディング市場の基礎になった。
一方、CoinDeskによると、CompoundのTVLは2021年9月のピーク時に約120億ドルだったが、記事公開時点では約12億ドルまで減少している。競合のAaveは同時期に約148億ドルを預かり、Compoundとの差が拡大した。過去の知名度だけでは資金を呼び戻せない状況が、今回の大型投資と組織刷新の背景にある。
5,200万ドル予算は何に使われるのか
Compoundのコミュニティフォーラムに提出されたV4資金計画では、5,200万ドルを約2年間の開発、立ち上げ、初期普及に使用する。内訳は運営プログラムが2,800万ドル、成長・インセンティブプログラムが2,400万ドルだ。
ただし、最初から全額を運営チームへ渡す仕組みではない。初年度の実行資金として1,400万USDCを運営用ウォレットへ移し、残る3,800万USDCは準備金ウォレットに置く。追加資金は、開発や事業上のマイルストーンが確認された後に段階的に解放される。
運営費には、プロダクト、エンジニアリング、インフラ、リスク管理、事業開発などが含まれる。成長予算は、製品の準備が整ってから、流動性の獲得やパートナー導入に重点的に投じる方針だ。Compound側は、2021年以降に4億ドルを超えるインセンティブを投入したものの、報酬だけでは持続的な競争力を形成できなかったと説明している。
この反省から、V4では短期的なトークン報酬よりも、金融機関が実際に組み込める製品、資本効率、流通経路の整備を優先する。予算の規模だけでなく、成果連動型の資金管理へ変更した点が重要だ。
Compound V4が目指すオンチェーン信用市場
Compound V4のロードマップでは、DeFiと伝統的金融の融合を前提に、パートナー統合機能、RWA対応、クロスチェーン機能、資本効率と清算機能の改善を掲げている。
パートナー統合機能は、取引所、ウォレット、カストディ事業者、資産運用会社などが、Compoundの貸付・借入機能を自社サービスへ組み込むための仕組みだ。利用者がCompoundの画面を直接操作しなくても、提携先のサービス内からオンチェーン信用へアクセスできる状態を目指す。
RWA分野では、トークン化株式を含む現実資産の活用が想定されている。ただし、RWAには本人確認、投資家資格、譲渡制限、価格評価、法的請求権など、通常の暗号資産とは異なる要件がある。Compoundが機関投資家を獲得するには、スマートコントラクトの追加だけでなく、発行体やカストディ企業、リスク管理会社との連携が欠かせない。
現行のCompound IIIは、各市場にUSDCなどの基軸資産を設定し、利用者がETHやWBTCなどを担保として基軸資産を借りる構造を採用している。担保資産そのものには利息が付かず、基軸資産の供給者が利用率に応じた利息を得る。この設計はリスクを市場単位で管理しやすい一方、V4にはより多様な信用商品と外部サービスを受け入れる拡張性が求められる。
Aave Horizonとの競争が焦点
Compoundの機関向け転換は、競合がまだ存在しない市場への先行投資ではない。Aaveはすでに、機関投資家や適格投資家がトークン化RWAを担保にステーブルコインを借りられるAave Horizonを運用している。
Aave HorizonはAave V3.3を基盤とし、SuperstateのUSTBとUSCC、CentrifugeのJRTSYとJAAAなどを担保として採用した。RWAの保有資格やウォレットの許可は各発行体が管理する一方、USDC、GHO、RLUSDなどのステーブルコイン供給には原則として特別な許可を必要としない構成だ。
このモデルでは、機関投資家が保有するトークン化資産を売却せずに、ステーブルコイン流動性を調達できる。資産ごとの本人確認や譲渡制限を維持しながら、DeFiの自動執行と24時間利用可能な流動性を組み合わせられる点が特徴である。
Compound V4が競争するには、Aave Horizonと同等以上のコンプライアンス対応だけでなく、金利条件、担保効率、清算設計、統合しやすいAPIやSDK、利用可能なRWA発行体の幅が問われる。単に「機関向け」と掲げるだけでは、すでに稼働するAaveのネットワーク効果を崩すのは難しい。
機関投資家が重視する実務要件
機関投資家にとって、利回りの高さは判断材料の一つにすぎない。実際の導入では、スマートコントラクト監査、権限管理、資産価格の取得方法、清算時の流動性、会計処理、規制対応、障害時の責任分界が重要になる。
Compound IIIには、口座所有者が別アドレスへ操作権限を与えるaccount manager機能がある。これは、カストディ事業者や運用システムが利用者に代わって担保移動などを実行する際に活用できる。ただし、許可された管理者は資産の引き出しや移転を実行できるため、機関利用では秘密鍵管理と権限分離が不可欠だ。
また、Compound IIIでは市場ごとに担保供給上限、借入担保係数、清算担保係数などが設定される。借入残高が清算条件を超えた場合、第三者が清算処理を実行できる。RWAを担保とする場合、暗号資産より取引時間や償還条件が限定される可能性があり、オンチェーン価格と実際の換金可能性をどう整合させるかが課題になる。
機関向け市場では、Circle、Chainlink、Superstate、Centrifugeのような発行体・価格情報・資産管理を担う企業との連携も競争力を左右する。Compoundの5,200万ドル計画は、プロトコル開発費というより、こうした一連の金融インフラを構築するための投資として見るべきだ。
COMP保有者と利用者への影響
COMP保有者が最初に確認すべきなのは、予算総額ではなくマイルストーンの内容と資金解放状況である。5,200万ドルは承認された事業枠であり、全額が直ちに費用として消えるわけではない。運営用の1,400万USDCと、成果確認後に解放される3,800万USDCでは、財務上の意味が異なる。
次に、パートナー発表と実際の利用を分けて評価する必要がある。金融機関との提携が公表されても、預入残高、借入需要、継続利用、プロトコル収益につながらなければ、Compoundの競争力が回復したとは判断できない。
一般利用者にとっては、機関向け市場が既存のパーミッションレス市場を置き換えるのか、別市場として併存するのかが重要だ。RWAには発行体による許可が必要な場合があるため、すべての担保や借入機能を誰でも利用できるとは限らない。一方、Aave Horizonのようにステーブルコイン供給側を一般ユーザーへ開放する設計なら、個人利用者が機関投資家の借入需要に流動性を提供する選択肢も生まれる。
投資判断では、COMP価格だけでなく、V4の監査完了、メインネット公開、対応市場、稼働中の統合先、TVL、借入残高、収益、インセンティブ控除後の採算を継続的に確認したい。
まとめ
Compoundの5,200万ドル計画は、個人向けDeFiレンディングの過去の成功から、RWAと金融機関を対象にしたオンチェーン信用インフラへ移行するための再建策である。予算は2年間を想定し、1,400万USDCを先行投入しながら、残額を成果条件付きで管理する。
方向性には合理性がある。トークン報酬だけに頼る成長から脱却し、パートナー統合、RWA、資本効率、リスク管理へ資金を振り向けるためだ。しかし、Aave Horizonなどの競合はすでに機関向けRWA市場を展開している。
Compound復活の成否は、予算の大きさではなく、V4を予定どおり公開し、規制・技術要件を満たすパートナーを獲得し、持続的な借入需要と収益を生み出せるかで決まる。利用者とCOMP保有者は、発表件数よりも、マイルストーン達成とオンチェーン上の実利用を重視して評価すべきだ。





