分散型デリバティブ取引所(DEX)の最大手の一つであるHyperliquidにおいて、革新的な試みとして注目を集めていた「AI未公開株パーペチュアル市場」が大きな転換点を迎えました。OpenAIおよびAnthropicの評価額に連動する市場を運営していた「Ventuals」が、当該市場の閉鎖とエコシステム内での統合を発表したことは、DeFiにおける現実資産(RWA)市場の成熟と淘汰の始まりを象徴しています。
HyperliquidのAI市場を牽引したVentualsの閉鎖と統合
2026年6月15日、Hyperliquidエコシステムにおける主要なプレイヤーの一つである「Ventuals」は、同プラットフォーム上で提供していたOpenAI(OPENAI)およびAnthropic(ANTHROPIC)のパーペチュアル(無期限先物)市場を閉鎖することを明らかにしました。Ventualsチームは今後、同じエコシステム内で活動する別のプロジェクト(TradeXYZ等への集約が示唆されています)に合流し、開発リソースを統合する方針です。
この決定に伴い、OPENAIおよびANTHROPICの全ポジションは自動的に決済(セトルメント)され、新規の取引は停止されました。Ventualsはこれまでの活動期間中に、累計6億5,000万ドル(約1,000億円)を超える取引高を記録し、コミュニティからは500,000 HYPE以上の支持を集めていた実績があります。この成功の裏での閉鎖は、DeFi市場における単機能プロジェクトから、より強固なインフラを持つ総合プラットフォームへの移行、いわゆる「エコシステムの集約化」が進んでいることを示しています。
なぜ未公開株(OpenAI/Anthropic)のパーペチュアルが注目されたのか
Ventualsが提供していた市場の最大の特徴は、本来であれば一部の機関投資家やベンチャーキャピタルしかアクセスできない「未公開企業の評価額」を、一般のトレーダーが24時間365日トレード可能にした点にあります。特にOpenAIやAnthropicといった生成AIのフロントランナーは、上場が期待されつつも依然として非公開企業であり、その企業価値の変動をヘッジ、あるいは投機する手段は極めて限定的でした。
Hyperliquidのようなオンチェーン・デリバティブプラットフォームでは、価格オラクルを通じて外部の流通市場(セカンダリーマーケット)での取引価格や資金調達時の評価額をソースとし、それをトークン化された証拠金で取引できるように設計されました。これにより、投資家は「AIブーム」というマクロトレンドを、株式市場を介さずに直接DeFi上でポートフォリオに組み込むことが可能となったのです。今回の閉鎖は、こうしたニッチな市場が一定の需要を証明した一方で、持続的な流動性を維持するためのオペレーションコストやリスク管理の難しさを浮き彫りにしました。
Hyperliquidの独自規格「HIP-3」がもたらした自由度と課題
Ventualsの市場運営を支えていたのは、Hyperliquidが導入した「HIP-3(Hyperliquid Improvement Proposal 3)」というフレームワークです。これは、サードパーティのチームがHyperliquidのインフラストラクチャを利用して、独自のパーペチュアル市場を構築・管理することを可能にする仕組みです。
HIP-3のメリットは以下の通りです:
- 迅速な上場: 取引所本体のガバナンスを待たずに、特定の需要がある資産を市場に投入できる。
- 資産の多様化: 仮想通貨だけでなく、AI企業、コモディティ、さらには特定地域の不動産指数など、あらゆるものを対象にできる。
- インセンティブの分散: 運営チームが独自の流動性マイニングやキャンペーンを展開できる。
しかし、Ventualsの閉鎖が示す通り、第三者による市場運営には「運営継続性」のリスクが伴います。中央集権的な取引所であれば、リストされた銘柄の管理は取引所が責任を持ちますが、HIP-3のような分散型モデルでは、運営主体であるプロジェクトチームの解散や統合が、そのまま市場の消滅に直結します。今回の自動決済プロセスは、透明性を持って実行されましたが、トレーダーにとっては戦略の強制終了という形でリスクが顕在化したと言えます。
DeFi市場におけるRWA(現実資産)の進化と統合の波
現在、DeFiの世界では「RWA(Real World Assets)」の取り込みが加速しています。債券、不動産、そして今回のような未公開株のデリバティブ化は、仮想通貨ネイティブな流動性を伝統的な金融資産へとつなげる架け橋となっています。Hyperliquidはその最前線に立っており、DefiLlamaのデータによると、過去1ヶ月間の累計取引高は約2,340億ドル(約36兆円)に達しています。
Ventualsが別のチームに合流するという動きは、この膨大な取引高を背景にした「勝者総取り」の兆候かもしれません。特定の資産クラスごとに小規模なチームが乱立するフェーズから、強力なバックエンドとUI/UXを持つ大規模なアグリゲーターへと、ユーザーと流動性が集約されつつあります。TradeXYZのような競合他社がHIP-3市場のオペレーターとして台頭する中、Ventualsは単独での運営よりも統合によるシナジーを選んだと考えられます。これは、プロダクトの機能性だけでなく、資本力とマーケティング能力がDeFiプロジェクトの生存を左右するフェーズに入ったことを意味しています。
投資家が注意すべき流動性とカウンターパーティリスク
今回のVentualsのケースから、DEXでRWAトレードを行う投資家が学ぶべき教訓は多岐にわたります。まず第一に、オンチェーンデリバティブにおける「価格乖離」のリスクです。未公開株のような流動性の低い資産を対象とする場合、オラクル価格と実際の取引価格の乖離が大きくなる可能性があり、決済時の価格が予想外の結果を招くことがあります。
次に「運営リスク」です。プロトコル自体が分散化されていても、特定の市場(HIP-3市場など)を管理する主体が特定のチームである場合、そのチームの動向が市場の存続に影響を与えます。以下のチェックリストは、今後同様の市場を利用する際の基準となります:
- 市場のロックアップ期間: 運営が停止した場合の資産回収プロセスが定義されているか。
- ボリューム/TVLの比率: 十分な流動性が提供され、スリッページが許容範囲内か。
- バックにある支援体制: どのようなベンチャーキャピタルやエコシステム基金がサポートしているか(Ventualsの場合はHYPEコミュニティが強力だった)。
まとめ:AIと金融の融合が次なるフェーズへ
VentualsによるOpenAIおよびAnthropic市場の閉鎖は、決して「失敗」ではなく、DeFiにおけるRWAトレードの「第一章の終わり」と捉えるべきです。6.5億ドルという多額の取引を処理し、未公開株トレードの需要を証明した功績は大きく、今後のエコシステム統合によって、より堅牢で流動性の高い市場として再構築されることが期待されます。
Hyperliquidのようなプラットフォームは、今後も既存の金融システムの壁を壊し続けるでしょう。しかし、投資家には技術的な理解だけでなく、運営主体の動向を注視するリテラシーが求められます。AI企業の価値をオンチェーンで取引するというパラダイムシフトは、これからが本番です。エコシステムの集約化が進むことで、より使いやすく、より安全なRWA市場が誕生することを期待しましょう。
sources
- CoinDesk: https://www.coindesk.com/business/2026/06/15/hyperliquid-loses-anthropic-openai-markets-as-creator-shuts-down-project
- DefiLlama (Hyperliquid Volume Data): https://defillama.com/protocol/hyperliquid
- Hyperliquid Official Docs (HIP-3 Framework): https://hyperliquid.gitbook.io/hyperliquid-docs
- Ventuals Official (Twitter/X Announcement): https://x.com/ventuals





