Kalshiは、取引参加を促す「Volume Incentive Program(出来高インセンティブ制度)」を、CFTCへの提出資料に基づき2026年10月13日以降に終了する方針です。 今回の焦点は、取引量の大きさそのものではなく、その取引量が実需、裁定取引、報酬設計のどれによって生まれたかを検証できるかにあります。 Kalshiはウォッシュトレードを否定しており、疑惑は確定した不正ではありません。
Kalshiが終了する出来高インセンティブ制度とは
The Blockによると、KalshiはCFTCへの提出資料で、Volume Incentive Programを早くても2026年10月13日に終了するとしました。従来の終了日は2027年10月1日とされており、約1年前倒しとなります。一方、提出資料は変更理由を明示していません。したがって、「疑惑を認めたため終了した」と断定することはできず、制度終了と疑惑の報道は分けて理解する必要があります。
Kalshiには、名称や参加条件の異なる複数の流動性施策があります。一般会員向けのLiquidity Incentive Programは、約定量だけでなく、注文板に残る指値注文を置き、他の利用者が取引しやすい状態を作る参加者へ報酬を与える仕組みです。別のLiquidity Provider Programでは、Kalshiとマーケットメーカー契約を結んだ参加者が、指定シリーズと期間ごとの要件を満たすと報酬を受け取ります。
重要なのは、今回報じられたVolume Incentive Programの終了を、Kalshi上の全流動性支援策が消えるという意味に広げないことです。個人向け施策、指定流動性供給者向け制度、先物の手数料還元は目的と条件が異なります。
ETH無期限先物を巡るウォッシュトレード疑惑
疑惑の中心は、KalshiのETH無期限先物で約5,500ドル規模の取引が反復し、出来高を押し上げたのではないかという指摘です。The Blockは、CFTCが取引を調べていると報じられた一方、Kalshiはこの件で調査対象になっていることを否定したと伝えています。現時点で公開情報から確認できるのは「疑惑と当事者の反論が存在する」という段階であり、当局が違反を認定した事実ではありません。
ウォッシュトレードは、実質的な市場リスクを移転する意思がないまま売買を成立させ、活発な市場であるかのような外観を作る行為を指します。ただし、同じ金額の取引が繰り返されたという外形だけでは成立を証明できません。マーケットメーカーが一定サイズの注文を継続掲示し、複数のテイカーが価格差を狙って順次約定すれば、似たサイズの取引が反復することがあります。
Kalshiは公式説明で、自己取引を機械的に遮断し、事前に取り決めた相対取引を監視・禁止していると主張しました。また、問題視された取引ではテイカー側に損益が生じており、実際の経済的リスク移転があったとの見解を示しています。これはKalshi側の説明であり、独立した当局判断と同一ではない点にも注意が必要です。
529億8,000万ドルの月間取引量をどう読むか
The Blockのデータによると、Kalshiの2026年9月の月間取引量は9月29日時点で529億8,000万ドルに達し、月末前ながら過去最高を更新しました。8月の386億7,000万ドルも上回っています。ただし、9月の数値は集計途中であり、確定月次値ではありません。
さらに、予測市場の出来高には表示方法の論点があります。Kalshiの公式説明では、YESを3セントで買う取引の反対側にはNOを97セントで取引する参加者がいるため、契約の想定元本1ドルを出来高として数える業界慣行を採用しています。実際に支払われた現金だけを見る指標とは意味が異なるため、暗号資産の現物DEXの出来高と単純比較すべきではありません。
Uniswapの現物スワップではプールを通過したトークン価値、Hyperliquidの無期限先物では建玉の想定元本、Kalshiのイベント契約では契約価値が中心になります。同じ「出来高」でも分母が違います。読者は集計定義、自己取引除外、報酬対象、手数料控除後の実収益を揃えてから比較する必要があります。
流動性と出来高は同じではない
Kalshiは公式説明で、出来高を過去に成立した取引、流動性を将来の注文執行可能性として区別しています。この区別はUniswapやAaveなどDeFiの分析でも重要です。出来高が多くても、注文板のスプレッドが広い、特定のマーケットメーカーへの依存が大きい、AMMの価格インパクトが深いなら、利用者の執行品質は高いとは限りません。
Kalshiの流動性供給者向け制度は、指定銘柄で一定の注文サイズ、売買両側の提示、稼働時間などの条件を設定し、要件達成者へ報酬を支払う考え方です。Uniswapの流動性マイニングも、報酬によって資本をプールへ誘導する点では似ていますが、AMMでは価格レンジ、インパーマネントロス、スマートコントラクトリスクが加わります。Aaveでは供給報酬が預入を増やしても、借入需要が弱ければ資本効率が高いとは限りません。
実務では、出来高に加えて、スプレッド、板の厚み、価格インパクト、建玉、ユニーク参加者、報酬を除いた手数料収入を見るべきです。単一指標だけで市場の健全性を判断しないことが基本になります。
報酬設計が取引行動を変える仕組み
インセンティブは初期市場に流動性を呼び込む有効な手段ですが、測定対象を最適化しすぎる副作用があります。単純な出来高連動報酬なら、低コストで売買を往復できる参加者ほど有利です。注文板への滞在、両側提示、狭いスプレッドを評価する方式でも、報酬獲得のために同じサイズの注文が反復し、市場の見かけと実需が乖離する可能性があります。
Kalshiは、無期限先物の自己清算会員に対する一時的な手数料還元について、取引ごとの合算手数料がマイナスにならないよう調整するとCFTC提出資料で説明しています。また、自己照合、ウォッシュトレード、事前調整取引などの調査対象となった取引には還元を適用しない方針を記載しています。これは、報酬が取引コストを下回り、回転売買だけで利益が出る状態を避けるための設計です。
DeFiでも同じ観点が必要です。Uniswapの流動性マイニング、Curveのゲージ報酬、Aaveの供給インセンティブを見る際は、報酬期間のTVLや出来高だけでなく、報酬終了後に流動性が残るか、第三者同士の実需があるかを確認するべきです。
DEX・DeFi利用者が確認すべき実務ポイント
第一に、出来高の定義を確認します。想定元本、片側約定額、売買両側の合算では数字が変わります。KalshiとUniswap、Hyperliquidを比較するなら、同じ定義に正規化しなければ結論を誤ります。
第二に、報酬を除いた指標を見ます。インセンティブ受取額を差し引いたマーケットメーカーの損益、プロトコル手数料、継続的な利用者数は、補助金に依存しない需要を測る手掛かりです。
第三に、集中度を確認します。少数の指定流動性供給者が大半の板を支えている場合、その参加者の撤退でスプレッドが急拡大する恐れがあります。AMMなら上位LPの集中度と、主要価格レンジから外れた時の実効流動性を確認します。
第四に、監視と開示を分けて評価します。KalshiはCFTC規制下の取引所として自己取引防止と市場監視を説明しています。一方、オンチェーンDEXは取引履歴を公開検証しやすい反面、同一主体が複数ウォレットを使うと実質的支配関係の判定が難しくなります。透明性が高いことと、不正の帰属が容易であることは同義ではありません。
今後の焦点は報酬終了後の市場品質
10月13日以降に見るべきなのは、単なる出来高減少の有無ではありません。ETH無期限先物を含む各市場で、スプレッド、板の厚み、建玉、ユニーク参加者、価格追随性がどう変化するかが重要です。報酬終了後も執行品質が維持されれば、実需が定着していた可能性が高まります。反対に、出来高と流動性が同時に急減するなら、成長の一部がインセンティブ依存だった可能性を検討する必要があります。
また、CFTCの公開文書やKalshiの追加説明で、終了対象となる制度の範囲、既存のLiquidity Provider Programとの関係、疑義のある取引への報酬処理が明確になるかも注目点です。制度変更だけを不正の証拠とみなさず、監督当局の正式文書と取引データを待つ姿勢が求められます。
まとめ
KalshiはVolume Incentive Programを2026年10月13日以降に終了する方針ですが、提出資料は理由を明示していません。ETH無期限先物を巡るウォッシュトレード疑惑に対し、Kalshiは自己取引防止、監視、テイカー側の実損益を根拠に否定しています。
9月の月間取引量は29日時点で529億8,000万ドルと過去最高でしたが、集計途中であり、契約想定元本に基づく予測市場特有の数え方にも注意が必要です。DEX・DeFi利用者にとっての教訓は、出来高だけでなく、報酬終了後のスプレッド、板の厚み、参加者集中度、実需、手数料収入を組み合わせて市場の健全性を評価することです。





