OKXとニューヨーク証券取引所(NYSE)親会社Intercontinental Exchange(ICE)の合弁会社OKXICEが、トークン化米国株を24時間365日取引できる市場の開設を計画している。 同市場はSECの「Innovation Exemption(イノベーション免除)」を利用し、X Layer上の許可型Uniswap v4プールで取引を処理する構想だ。 ただし、SECによる個別認可を意味するものではなく、開始日は未公表。株価との乖離、発行企業の異議、スマートコントラクトなど固有のリスクもある。
OKXとNYSE親会社ICEが計画する新市場
Decryptの報道によると、OKXICEは2026年10月4日付の公開通知で、SECのイノベーション免除に基づくTokenized Securities Venue(TSV)の運営方針を示した。OKXICEは暗号資産取引所OKXと、NYSEを傘下に持つICEによる合弁会社である。
最大の特徴は、従来の米国株市場の取引時間に限定されず、24時間365日の取引を想定している点だ。公開通知にはNvidia、Tesla、Apple、Microsoft、Coinbase、Circle、Strategy、Robinhood、BitGo、Securitizeなど、60を超える企業に関連するトークン化証券が記載された。非公開企業のSpaceXに関連する銘柄も含まれる。
各トークン化株式は、CircleのUSDC、Paxos系のUSDG、TetherのUSDTのいずれかと組み合わせて取引される計画だ。ただし通知は運営の枠組みを示したもので、具体的なサービス開始日は明らかにしていない。利用者は「申請済み」や「通知済み」と「SECが個別商品を承認した」という状態を混同しないことが重要である。
SECのイノベーション免除とは何か
SECは2026年9月17日、トークン化されたNational Market System(NMS)株式を、許可型の自動マーケットメーカー(AMM)や流動性プールで取引するTSVに対し、一時的かつ条件付きの免除措置を公表した。これは一定条件を満たすTSVを、米証券取引法上の「取引所」の定義から一時的に免除する制度である。
SECが各TSVを通常の証券取引所と同じ方式で個別認可する仕組みではない。事業者が条件を満たしたうえで通知し、免除条件に従って運営する。免除は恒久制度ではなく、SECの発表では公表から5年後に失効する予定とされている。
条件には、対象銘柄数と取引量の制限、通常株式と同等の権利の確保、スマートコントラクトの公開性と監査可能性、原株が取引停止になった場合の同時停止、運営・取引活動に関する情報公開などが含まれる。したがって、Uniswap型AMMを利用していても、誰でも無条件に参加できる一般的なDeFi市場とは制度設計が異なる。
Uniswap v4とX Layerを使う取引構造
OKXICEの公開通知によれば、取引はOKXが開発するEthereumレイヤー2のX Layer上に構築された、Uniswap v4の流動性プールを通じて行われる。X Layerの公式資料は、同ネットワークをOP StackベースでEVM互換のレイヤー2と説明している。
Uniswap v4は、プール固有の処理を追加できる「Hooks」の仕組みを備える。OKXICEはこの構造を利用し、各取引や流動性供給の前に参加資格を検査する専用コントラクトを組み込む計画だ。価格は注文板ではなく、プール内の資産比率を基礎とするAMMによって形成される。
一方、アクセスは許可型である。本人確認、マネーロンダリング対策、制裁対象者の確認などを通過したウォレットには、譲渡できないSoulbound Token(SBT)が発行される。取引や流動性供給を行う際には、このSBTの有効性がスマートコントラクトで確認される。つまり、基盤技術にはUniswap v4を使うものの、Uniswapの一般的なパーミッションレス・プールとは参加条件が大きく異なる。
トークン保有者は何を保有するのか
公開通知では、トークンを発行する主体はOKXICEとは別の第三者「Tokenizer」と説明されているが、名称は公表されていない。Tokenizerは登録ブローカーディーラーを通じて原株を1対1で保有し、それに対応するトークンを発行する設計とされる。
通知上、保有者には原株と同等の配当、議決権、清算時の残余財産に関する権利が付与される。もっとも、実務上はTokenizerや証券保管の仕組みを介して権利が移転されるため、利用者が上場企業の株主名簿に直接記載される一般的な株式保有と同一とは限らない。権利行使の方法、償還手続き、カストディ障害時の扱いを確認する必要がある。
発行企業本人の参加も必須ではない。SECの条件では、第三者が企業の株式をトークン化する場合、TSVは原株の発行企業へ通知し、異議を申し立てる機会を与えなければならない。Decryptは、半導体企業Cerebras Systemsがすでに異議を提出したと報じている。異議が成立した銘柄は、そのTSVで取引できない。
DEX・DeFi市場に与える影響
OKXICEの構想は、AMM、ステーブルコイン、レイヤー2というDeFiの主要技術を、規制対象の株式取引へ持ち込む事例である。Uniswap v4のプール設計が証券市場で利用されれば、流動性提供者が株式トークンとUSDCなどを預け、オンチェーンで価格形成に参加する新しい市場モデルが試される。
ただし、一般的なUniswapやCurveの流動性プールと同じ感覚で評価するのは危険だ。OKXICEでは参加ウォレットが限定され、取引可能銘柄や取引量にも規制上の上限がある。原株の取引停止時にはトークン取引も停止しなければならず、完全に自律した市場ではない。
Aaveのようなレンディング市場でトークン化株式を担保として利用できるか、Curveのような別のDEXへ移動できるかも、今回の通知だけでは確認できない。証券規制、SBTによるアクセス制御、Tokenizerの移転制限があるため、通常のERC-20資産のような自由なコンポーザビリティを前提にすべきではない。現時点では「DeFi技術を利用した規制市場」であり、オープンなDeFi資産としての利用範囲は未確定である。
利用前に確認したい主要リスク
第一は価格乖離だ。OKXICEの価格はAMMプール内で形成されるため、NYSEやNasdaqで取引される原株価格と一致する保証はない。特に米国株の通常取引時間外は、原市場からの裁定取引が機能しにくく、流動性が薄いプールでは価格差やスリッページが拡大する可能性がある。
第二は発行体・カストディリスクである。トークンの価値は、Tokenizerが原株を適切に保有し、配当や議決権、償還を正しく処理することに依存する。USDC、USDG、USDTにも、それぞれ発行体、準備資産、凍結、償還に関するリスクがある。
第三は技術リスクだ。Uniswap v4のHook、OKXICE独自コントラクト、SBT、X Layerのシーケンサーのいずれかに障害が起きれば、取引や資産移動が遅延・停止する可能性がある。流動性提供者には価格変動に伴うインパーマネントロスも生じ得る。
さらに、24時間取引は常に十分な流動性があることを意味しない。取引時間の長さではなく、プール残高、実効スプレッド、スリッページ、原株市場の開場状況、償還条件を個別に確認する姿勢が必要だ。
まとめ
OKXICEの計画は、NYSE親会社ICEとOKXが、Uniswap v4、X Layer、ステーブルコインを組み合わせ、トークン化米国株の24時間市場を構築しようとする取り組みである。SECのイノベーション免除により、許可型AMMを使った証券取引を限定的に試せる制度環境が整いつつある。
一方、これは無条件の規制承認でも、既存株式と完全に同一の取引体験を保証するものでもない。開始日は未公表で、発行企業の異議申立て、原株との価格乖離、Tokenizerへの依存、スマートコントラクト、ステーブルコイン、流動性などのリスクが残る。今後は正式な開始時期、Tokenizerの名称、対象銘柄、償還手続き、実際の流動性が重要な確認項目となる。





