OKXとニューヨーク証券取引所の親会社Intercontinental Exchange(ICE)の合弁会社OKXICEは、トークン化米国株の取引市場「Tokenized Securities Venue(TSV)」を開設する意向を米証券取引委員会(SEC)へ通知した。 重要なのは、計画がSECの一時的・条件付き免除制度を利用する点だ。暗号資産型の取引基盤を採用する一方、本人確認、発行企業への通知、株主権の維持、取引停止への連動など、証券市場としての制約が組み込まれる。 なお、現時点で市場が稼働したわけではなく、今回の発表は開設に向けた通知段階である。
OKXICEがSECへ通知した計画の概要
The Blockが2026年10月5日に報じたところによると、OKXICEはSECの「Innovation Exemption」を利用し、トークン化証券取引市場を開設する意向を通知した。公開通知の日付は同年10月4日である。
運営主体のOKXICE LLCは、ICEとOKC USA Holdingがそれぞれ半分ずつ保有する合弁会社だ。ICEはNYSEを傘下に持つ市場インフラ企業であり、OKX側は暗号資産取引とブロックチェーン技術を提供する。伝統的金融市場とオンチェーン市場の事業者が、同一の取引基盤を共同で設計する形となる。
公開通知には、Apple、Microsoft、NVIDIA、Tesla、Amazon、Alphabetなどを含む63銘柄が掲載された。各トークン化株式は、USDC、USDGまたはUSDTと組み合わせて取引する計画である。ただし、掲載銘柄がすべて開始時に取引可能になるとは限らない。発行企業には異議を申し立てる機会があり、制度上の条件や取引量制限も満たす必要があるためだ。
SECのInnovation Exemptionとは何か
SECは2026年9月17日、トークン化されたNational Market System(NMS)株式を扱うTSVに対し、証券取引所の定義から一時的・条件付きで免除する命令を公表した。対象は、許可された参加者がAMMの流動性プールを通じて取引する仕組みである。
免除は、トークン化証券を一般の暗号資産と同様に無条件で売買できる制度ではない。SECは、取扱銘柄数と取引量への上限、原株と同等の権利、発行企業への事前通知、公開かつ監査可能なスマートコントラクト、原株の取引停止との連動、運営・取引情報の公開などを条件としている。
制度は恒久的な新ルールではなく、SECの公表資料では有効期間が公表後5年間とされている。その間に得られる取引データや意見を、将来の規則整備に活用する位置付けだ。したがって、OKXICEの通知は正式な無期限ライセンス取得ではなく、限定された実証制度への参加表明と理解する必要がある。
X LayerとUniswap v4を使う取引構造
OKXICEの公開通知によれば、TSVはOKXが開発するEthereumレイヤー2「X Layer」上で運用される予定だ。X Layerの公式資料では、同ネットワークはOP Stackを基盤とするEVM互換L2として説明されている。
取引にはUniswap v4の流動性プールを利用し、独自拡張である「OKXICE TSV Hook」によって参加資格や取引条件を制御する。Uniswap v4のHookは、プールの処理に追加ロジックを組み込める設計であり、OKXICEはこれを証券取引向けの許可制アクセスに利用する構想だ。
参加者のウォレットには、譲渡できないソウルバウンドトークン(SBT)が発行される。SBTは投資商品ではなく、本人確認や制裁スクリーニングを通過したウォレットであることを示す参加資格として機能する。Uniswapの仕組みを使用していても、誰でも匿名で接続できる通常のパーミッションレスDEXとは異なる。
価格はプール内の資産比率に基づくAMM方式で形成され、OKXICEの通知ではスマートコントラクト内部で価格オラクルを利用しないと説明されている。このため、NYSEなどの主要市場が閉まっている時間帯や、プールの流動性が少ない局面では、トークン価格が原株の参考価格から乖離する可能性がある。
24時間取引、即時決済、セルフカストディ
OKXICEは、TSVを週7日・24時間稼働させる計画だ。NYSEの通常取引時間外にもAppleやNVIDIAなどのトークン化株式を売買できる点は、今回の構想を象徴する特徴である。
取引はX Layer上でアトミックに決済される。公開通知では、中央清算機関や中央清算当事者を介したネッティングを行わず、交換する二つの資産が同一処理の中で移転する構造が示された。OKXICE自身は顧客資産を保管せず、参加者はセルフカストディ型ウォレットを利用する。
もっとも、オンチェーン決済が伝統市場の信用・法務手続きをすべて不要にするわけではない。ウォレットの秘密鍵管理、スマートコントラクトの不具合、L2の運用、ステーブルコインの価格安定性など、従来の証券口座とは異なるリスクが加わる。秘密鍵を失った場合や、不正アクセスを受けた場合に、運営会社が損失を補償する仕組みとはされていない。
トークン保有者に株主権はあるのか
OKXICEが想定するトークン化株式は、単に株価へ連動するデリバティブではない。公開通知では、同等クラスの原株保有者と同じ権利・特権をトークン保有者へ提供することが条件とされている。
対象には、発行企業に対する持分、配当、議決権、清算時の残余財産に関する権利などが含まれる。実務上は、原株を管理してトークンを発行する「Tokenizer」が、配当や議決権、委任状関連資料をトークン保有者へ受け渡す役割を担う。
この点は、価格連動だけを目的とする一部の合成資産と区別するうえで重要だ。例えば、DeFiの無期限先物や合成株式は、株価への経済的エクスポージャーを再現しても、必ずしも発行企業に対する議決権や配当請求権を伴わない。OKXICEは、SECの条件に沿って原株とトークンの権利関係を接続しようとしている。
DEX・DeFi市場への影響と実務上の論点
OKXICEの方式は、Uniswap v4型AMMを規制対象証券へ応用する事例になる。実現すれば、従来は暗号資産交換に使われてきた流動性プールが、AppleやMicrosoftなどの株式取引にも利用されることになる。
ただし、既存のUniswap利用者が同じ感覚で参加できるわけではない。KYC・KYB、制裁スクリーニング、ウォレット審査、SBTによる参加制御が前提であり、流動性提供者にも適格性確認が求められる。SECの免除制度は、AMM流動性提供者についても一定条件の下でディーラー定義から一時的に免除するが、無制限なマーケットメイクを認めるものではない。
DeFiとの組み合わせを検討する際は、トークン化株式をAaveなどのレンディング市場へ自由に持ち込めるか、Curveのような別のAMMへ移動できるかを個別に確認する必要がある。OKXICEの参加資格、トークンの移転制限、Tokenizerの契約、担保評価、清算方法が対応していなければ、一般的なERC-20と同じコンポーザビリティは成立しない。
また、原株の主要取引所で売買停止が発生した場合、TSV側も同時に取引を停止しなければならない。24時間市場であっても常時取引が保証されるわけではない。原株市場との価格差、AMMの流動性不足、ステーブルコインの信用、スマートコントラクトの管理者権限も確認すべきポイントとなる。
まとめ
OKXとICEの合弁会社OKXICEは、SECのInnovation Exemptionを利用し、X LayerとUniswap v4を基盤とするトークン化米国株市場を開設する意向を通知した。計画には63銘柄が掲載され、24時間取引、オンチェーン決済、セルフカストディ、原株と同等の株主権が主要な特徴として示されている。
一方、これは無条件の分散型取引所ではない。本人確認、SBTによる参加制御、発行企業への通知、取引量上限、原株の取引停止との連動など、証券市場固有の規制が組み込まれる。価格乖離、秘密鍵管理、スマートコントラクト、ステーブルコイン、権利移転の実務も残る。
今回の通知は、伝統的な証券市場とDeFiのAMM技術が接続される具体例として注目される。ただし、開設時期や最終的な取扱銘柄は確定しておらず、今後はSECの条件を満たした運用開始、発行企業の対応、実際の流動性と価格形成を確認する必要がある。





