ビットコイン保有最大手のStrategy(旧MicroStrategy、ティッカー:MSTR)が、指数プロバイダーMSCIの新ルール案に公式に反論した。争点は、MSCIが導入を検討する「非事業会社(non-operating company)」の判定基準で、これが適用されるとStrategyはMSCIのグローバル株価指数から除外される可能性がある。Strategyは「デジタル資産は資産であり、指数プロバイダーは市場を測定すべきで、企業が保有してよい資産を決めるべきではない」と主張している。本記事では、この対立の背景と、ビットコイン・トレジャリー企業(DAT)を巡る制度的論点を整理する。
何が起きたのか:MSCIの新ルール案とStrategyの反論
2026年8月、Strategyは自社のX(旧Twitter)で、MSCIが提案する「非事業会社」判定の方法論に対して公式に反対の立場を表明した。MSCIは財務比率に基づくスクリーニングを用いて、実質的に事業を営んでいないと見なされる企業を主要株価指数から除外する枠組みを検討している。
Strategyの投稿は明快だ。「デジタル資産は資産である。指数プロバイダーは市場を測定すべきであり、企業がどの資産を保有してよいかを決めるべきではない」「MSCIの提案は、規制当局、市場、そしてMSCI自身の顧客とも歩調が合っていない。ビットコインにMSCIは不要だ。Strategyにとっても同様である」と、強い言葉で批判した。
この反論は、単なる一企業の指数除外問題にとどまらない。株式を保有資産の大半としてビットコインに振り向ける「トレジャリー企業」というビジネスモデルそのものが、伝統的な株式指数の枠組みの中でどう扱われるべきか、という構造的な問いを含んでいる。
「非事業会社」ルールとは何か
MSCIが現在市中協議(コンサルテーション)にかけている案は、以前の提案を置き換えるものだ。従来案はデジタル資産を多く保有する企業に的を絞った内容だったが、新案はより一般的な財務比率スクリーンを用いる形になっている。
CoinDeskの報道によれば、2026年5月時点のデータを新しい財務比率スクリーンに当てはめた場合、MSCI ACWI IMI(オール・カントリー・ワールド・インデックス投資可能市場指数)から除外され得る企業として、Strategy、日本のMetaplanet(メタプラネット)、そしてウラン保有企業のYellow Cakeが挙げられている。
ここで注目すべきは、除外候補にビットコイン企業だけでなく、ウランという現物資産を保有するYellow Cakeも含まれる点だ。つまりMSCIの新基準は、特定の資産クラスを狙い撃ちするのではなく、「事業活動よりも資産保有が支配的な企業」を広く捉えようとする設計になっている。それでも実務上の影響は、ビットコインを大量に抱えるトレジャリー企業に集中する構図となっている。
Strategyの「事業会社である」という主張
Strategyの反論には前史がある。同社は2025年12月、MSCIの従来案に対して正式な異議を申し立てていた。従来案は、デジタル資産が総資産の少なくとも50%を占める企業を指数から除外する内容だった。
Strategyはこの50%という基準を「恣意的」だと批判し、MSCIに対して中立的な指数基準を維持するよう求めた。同社の論理はこうだ。Strategyは投資ファンドでもなければ、単にビットコインを受動的に保有するだけの器(パッシブなビットコイン・ビークル)でもない。むしろ、以下の三つの柱を持つ「事業会社(operating company)」であると位置づけている。
- ソフトウェア事業:長年にわたって展開してきたビジネスインテリジェンス(BI)関連のソフトウェア事業を継続している。
- 能動的なトレジャリー運用:ビットコインの取得や資本市場での資金調達を組み合わせた、積極的な財務戦略を実行している。
- ビットコイン担保のクレジット商品:ビットコインを裏付けとした信用性商品・金融手段を活用している。
Strategyは、これらの事業活動を根拠に、自社を単なる資産保有体と同一視するのは不適切だと訴えている。指数からの除外は、パッシブ運用資金の流出を通じて株価に影響し得るため、企業にとって無視できない問題だ。
なぜ指数採用が重要なのか
株価指数への組み入れは、企業にとって単なる名誉ではなく、実際の資金フローに直結する。MSCI ACWIやその投資可能市場版であるIMIは、世界中のパッシブファンドやインデックス連動型ETFがベンチマークとして採用している。指数に組み入れられていれば、これらのファンドは機械的に当該銘柄を購入し、除外されれば機械的に売却する。
したがって、Strategyのような大型銘柄が主要指数から外れれば、相応の売り圧力が生じる可能性がある。これはトレジャリー企業のモデル全体にとってのリスク要因だ。ビットコイン価格の上昇を株式の形で投資家に届けるという戦略は、株式が伝統的な市場インフラ(指数、ETF、機関投資家のポートフォリオ)に組み込まれていることを前提としているからである。
MSCIが「非事業会社」として一部のトレジャリー企業を除外すれば、この前提の一角が崩れかねない。Strategyが「MSCI自身の顧客とも歩調が合っていない」と述べたのは、指数を利用する運用会社の多くがすでにこれらの銘柄をポートフォリオに保有している現実を指していると読める。
市場の反応と当日の株価動向
こうした議論が進むなか、報道時点でMSTRの株価は93.05ドルで、金曜日には4.3%下落した。同じくビットコイン価格も6万2,600ドルまで下落しており、株式とビットコインの両方が軟調な地合いにあった。
ただし、この日の株価下落を指数除外リスクだけに帰することはできない点には注意が必要だ。ビットコイン自体が下げていること、米国のインフレ指標が市場の追い風にならなかったことなど、複数のマクロ要因が同時に作用している。トレジャリー企業の株価は、保有するビットコインの時価と連動しやすく、地合い全体の影響を受けやすい構造にある。
DAT(デジタル・アセット・トレジャリー)を巡る制度的論点
今回の対立は、より大きなテーマの一部として捉えると理解しやすい。ビットコインやその他のデジタル資産を財務戦略の中核に据える上場企業(いわゆるDAT)が世界的に増えるなか、既存の金融インフラがこれらをどう分類・格付けするかという「制度的な受け入れ」の問題が浮上している。
Strategyの立場は、「指数プロバイダーの役割は市場をありのままに測定することであり、企業の資産選択に価値判断を持ち込むべきではない」という原則論だ。一方でMSCIの側にも、指数が本来意図する「事業を営む企業への分散投資」という性格を維持したいという合理性がある。資産保有が支配的な企業を無条件に組み入れれば、指数の性格が変質しうるという懸念だ。
この論点に唯一の正解はない。投資家にとって重要なのは、規制当局・指数プロバイダー・市場参加者の間で、デジタル資産を保有する事業会社の位置づけがまだ流動的であるという事実を認識することだ。DAT関連銘柄への投資を検討する際には、価格変動リスクに加えて、こうした指数採用を巡る制度リスクも判断材料に含める必要がある。
まとめ
StrategyとMSCIの対立は、ビットコイン・トレジャリー企業が伝統的な株式市場インフラの中でどう扱われるべきか、という新しい問いを鮮明にした。MSCIの「非事業会社」ルール案が現行のまま適用されれば、Strategyやメタプラネット、Yellow Cakeなどが主要指数から除外される可能性がある。
Strategyは、自社をソフトウェア事業・能動的トレジャリー運用・ビットコイン担保クレジットを持つ「事業会社」と位置づけ、指数プロバイダーは市場を測定するのが役割だと主張する。一方MSCIには、指数の性格を保つという別の論理がある。この協議の帰結は、Strategy一社の問題を超えて、DATというモデル全体の制度的な立ち位置を左右し得る。今後のMSCIの最終判断と、他の指数プロバイダーの対応に引き続き注目したい。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄や投資行動を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。





