ビットコイン(BTC)のインプライド・ボラティリティ(予想変動率)を示す「BVIV指数」が、2026年8月上旬の週末に35.59%まで低下し、2025年9月以来の低水準を記録した。価格が7月初旬から6万2,000〜6万6,000ドルのレンジで膠着するなか、オプション需要が細り、大きな値動きを見込む取引が消えつつある。ただし、下落に備えるプット・オプションは依然としてコールより割高で、市場が「上昇より下落リスク」を警戒し続けている構図が浮かび上がる。本記事では、この現象の背景と、DeFiオプション市場を含めた実務的な読み解き方を解説する。
BVIV指数とは何か
BVIVは、暗号資産デリバティブ・プラットフォームのVolmexが算出する、ビットコインの年率換算30日インプライド・ボラティリティの指標だ。米国株式市場でよく知られるCboeのVIX指数(通称「恐怖指数」)のビットコイン版に相当する。
VIXと同様、BVIVは「今後の値動きの大きさをオプション市場がどう織り込んでいるか」を映す。投資家が急変動を警戒してオプション(特にヘッジ目的のプット)を買い急げば指数は上昇し、逆に警戒感が薄れて需要が細れば指数は低下する。つまりBVIVは、価格の方向性ではなく「不安の温度感」を測るセンサーである。
インプライド・ボラティリティは、実際に起きた過去の変動(ヒストリカル・ボラティリティ)ではなく、オプション価格に織り込まれた「これから起きると市場が予想する変動」を示す点が重要だ。オプションが割高であればBVIVは高く、割安であれば低くなる。
90%から35%台へ——半年で一変した相場心理
現在の35.59%という水準は、2026年2月の状況からの急落だ。CoinDeskの報道によれば、2月にはビットコインが9万ドルから6万ドル近辺まで急落する過程で、トレーダーが激しい値動きに備えてオプションに殺到し、BVIVは一時90%超まで急騰していた。
そこから約半年で指数はおよそ3分の1の水準まで下がった。背景にあるのは価格の膠着だ。ビットコイン価格は7月初旬以降、6万2,000〜6万6,000ドルの狭いレンジ内で推移し、上下どちらにも大きく動いていない。値動きが乏しければ、大きな変動を前提にしたオプション取引の妙味は薄れる。結果として、恐怖指数は静かに沈み込んでいった。
この半年間の推移は、ボラティリティ指標が「価格そのもの」ではなく「市場参加者の期待の振れ幅」を反映することを端的に示している。価格が動かないレンジ相場では、たとえ方向感に不安が残っていても、変動率の指標は低下しやすい。
需給の不均衡がBVIVを押し下げた
暗号資産プライムブローカーFalconXでデリバティブ部門を率いるGriffin Sears氏は、BVIVの低下を「暗号資産オプション市場における広範な需給の不均衡」の結果だと指摘する。
ビットコイン価格が頑固にレンジ内にとどまるなか、上下いずれかへの大きな動きに賭ける「方向性オプション(ディレクショナル・オプショナリティ)」への需要が蒸発した、というのが同氏の見立てだ。方向性オプションとは、トレーダーが原資産の大きな値動きを予想してコールやプット(あるいはその両方)を買い、変動から利益を狙う取引を指す。今はその買い手が乏しい。
一方で、供給サイドはオプションを売り続けている。マイナー(採掘業者)や暗号資産を保有する事業会社が、保有BTCに対してコールを売る「オーバーライティング(カバードコール)」戦略を通じてオプションを市場に供給し続けているためだ。オーバーライティングは、原資産を保有したままコールを売ってプレミアム(オプション料)を得る手法で、レンジ相場では追加収益を狙いやすい。買い手が減る一方で売り手が供給を続ければ、オプション価格は下がり、インプライド・ボラティリティ、すなわちBVIVも押し下げられる。
それでも下落保険は割高——プットの歪み
注目すべきは、全体のボラティリティが低下してもなお、下落方向の「保険」が割高なままだという点だ。CoinDeskによれば、プット・オプションは依然としてコール・オプションに対してプレミアム(上乗せ価格)で取引されており、ビットコインのさらなる下値への根強い警戒感を示している。
この現象は、オプション市場で「スキュー(歪み)」と呼ばれる。本来、上昇に賭けるコールと下落に備えるプットが同程度の需要なら価格は近くなるはずだが、下落ヘッジ需要が強いとプットが相対的に高くなる。株式市場でも下落局面への保険が恒常的に割高になる「ボラティリティ・スキュー」が知られており、ビットコインでも同様の非対称な心理が働いている。
つまり足元の市場は、「当面は大きく動かないだろう」と見つつも、「動くなら下方向のリスクの方が怖い」という警戒を捨てていない。方向性の賭けは細っているのに、下落保険の需要だけは根強く残る——この二面性が、低ボラ環境下でのプット割高という一見矛盾した状況を生んでいる。
DeFi・オンチェーンオプションへの示唆
ここまで述べたオプション市場の力学は、中央集権型取引所(Deribitなど)だけの話ではない。DeFi領域でも、オンチェーンでオプションを売買・運用するプロトコルが存在し、同じ需給構造の影響を受ける。
たとえば、カバードコールやプット売りといった戦略を自動運用する「オプション・ボールト(DeFiオプション金庫)」型のプロダクトは、原資産保有者がプレミアムを得る仕組みとして普及してきた。これはまさに、記事で言及された事業会社やマイナーによるオーバーライティングのDeFi版と言える。低ボラ・レンジ相場ではプレミアム収入が細るため、こうしたボールトの利回りも縮小しやすい。
また、インプライド・ボラティリティが低い局面は、ヘッジやディレクショナルな賭けを行いたいトレーダーにとって「オプションを相対的に安く買える」機会でもある。BVIVのようなオンチェーン化された指標を参照することで、DeFi上のオプション建玉やボールト運用のタイミングを判断する材料になる。DEXやデリバティブDEXを利用する読者にとって、CEX由来のボラティリティ指標を横目で読むことは、オンチェーン戦略の精度を上げるうえで有用だ。
なお、具体的なプロトコルの利回りや建玉状況は市況で大きく変動するため、実際に利用する際は各プロトコルの公式ドキュメントとリアルタイムのデータを必ず確認してほしい。
まとめ
ビットコインの恐怖指数BVIVは35.59%まで低下し、2025年9月以来の低水準となった。7月以降の6万2,000〜6万6,000ドルというレンジ膠着を背景に、大きな値動きに賭ける方向性オプションの需要が蒸発する一方、マイナーや事業会社によるオーバーライティングが供給を続け、需給の不均衡がボラティリティを押し下げた。
しかし、下落に備えるプットはコールに対して依然プレミアムで取引されており、市場は「当面は静かでも、動くなら下方向」という非対称な警戒を維持している。低ボラ環境は、ヘッジやオプション買いにとってはコストが下がる局面でもあり、DeFiのオプション・ボールトやデリバティブDEXを使う投資家にとっても示唆に富む。指標の水準だけでなく、コールとプットの歪み(スキュー)まで含めて読むことが、相場心理を正確に捉える鍵となる。
本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言ではない。オプション取引はリスクを伴うため、最終的な判断は自己責任で行ってほしい。





