米国の新たな暗号資産規制法案「CLARITY法」の最新草案が明らかになり、ステーブルコインUSDCの発行元であるCircle社の株価が一時20%急落しました。市場はステーブルコインの利回りに関する規制強化を懸念しましたが、一部のアナリストは、この動きは過剰反応であり、長期的にはCircleにとって有利に働く可能性があると指摘しています。本記事では、法案がCircleとCoinbaseの力学に与える影響と、Circleの将来的な企業価値について掘り下げていきます。
規制案をきっかけにCircle株価が20%下落
2026年3月25日、暗号資産の規制明確化を目指す「CLARITY法」の最新草案の内容が報じられると、市場は即座に反応しました。特に、ステーブルコインの利回り(イールド)提供に対する制限的な姿勢が示されたことから、USDCを発行するCircle(CRCL)の株価は前日比で20%もの大幅な下落を記録。USDCの主要な取引プラットフォームであるCoinbase(COIN)の株価も下落しましたが、Circleほどの下げ幅ではありませんでした。
市場の懸念は、利回り提供が制限されることで、ユーザーがステーブルコインを保有するインセンティブが薄れ、USDCの需要が減少するのではないかという点に集中しました。しかし、この短期的な市場のパニックは、規制がもたらすより長期的で構造的な変化を見過ごしている可能性があります。
なぜCLARITY法はステーブルコインの利回りを問題視するのか
CLARITY法が目指すのは、暗号資産、特にステーブルコインに関する規制の枠組みを明確化し、消費者保護と金融システムの安定を図ることです。今回の草案で問題視されたのは、ステーブルコインの預金に対して付与される「利回りのような報酬」です。規制当局は、これが銀行預金の利子と類似した性質を持つにもかかわらず、銀行と同様の規制や保護(預金保険など)の対象外であることを問題視していると考えられます。利回りの提供を制限することで、ステーブルコインが無規制の銀行類似サービスとして拡大することに歯止めをかけようという意図がうかがえます。
この規制は、Coinbaseのようにユーザーの預かり資産から大きな収益を上げているプラットフォームにとって、短期的には収益性の高いビジネスモデルの一部を損なう可能性があります。
CircleとCoinbaseの現在の収益構造
CircleとCoinbaseの関係性を理解する上で、USDCから得られる収益の分配構造が鍵となります。現在、両社間の配布契約により、CoinbaseはUSDCの経済圏から大きな利益を得ています。調査会社10x Researchの創設者であるマーカス・ティーレン氏の分析によると、Coinbaseプラットフォーム上で保有されているUSDCから生じる利息収入のほぼ全てをCoinbaseが受け取っています。プラットフォーム外での残高については、収益は概ね50%ずつで分配されているとのことです。
ティーレン氏の試算では、CircleはCoinbaseに対して年間9億ドル以上の収益分配金を支払っており、これはCircleの総収益の約半分に相当する規模です。この契約により、ステーブルコイン事業はCoinbaseにとって非常に利益率の高いビジネスとなっています。
法案がもたらすパワーシフト:発行体Circleへの追い風
CLARITY法がステーブルコインの利回りを制限すると、Coinbaseの収益モデルの優位性が揺らぐ可能性があります。ティーレン氏は、この規制変更が巡り巡って、CircleとCoinbaseの交渉力に変化をもたらすと指摘します。「この状況は相対的にCircleをますます有利にする」と同氏は述べ、連邦レベルの規制枠組みが、コンプライアンス体制、事業規模、そして信頼性の高いバランスシートを持つ規制された発行体の価値を高めるだろうと論じています。
この力関係の変化は、2026年8月に予定されている両社間の商業契約の再交渉において、極めて重要な意味を持ちます。より厳格な連邦規制下では、Circleが現在よりも有利な条件を勝ち取る可能性が高まると考えられます。価値の源泉が「配布力」から「発行体の信頼性」へと移ることで、Circleの交渉力が強化されるという見方です。
アナリストが見るCircleの将来性:750億ドル評価への道
一方、大手暗号資産投資企業BitwiseのCIOであるマット・ホーガン氏は、今回のCircle株の急落を「過剰反応」だと一蹴しています。ホーガン氏によれば、CLARITY法はCircleの長期的な投資テーマを変えるものではないと指摘。ステーブルコイン需要の根幹は、利回りではなく、決済や送金といった実用的なユーティリティによって牽引されているためです。
ホーガン氏はさらに、明確な規制と市場の成長が組み合わさることで、Circleの企業価値は約750億ドル(約11兆円)に達する可能性があると予測しています。規制の明確化は、機関投資家の参入を促し、ステーブルコイン市場全体のパイを拡大させる要因となり、その中心的なインフラであるCircleが最も恩恵を受けるというシナリオです。
まとめ
CLARITY法案を巡るCircle株価の急落は、市場が短期的な利回りへの影響に過度に焦点を当てた結果と言えるかもしれません。しかし、より深く分析すると、この規制はステーブルコイン市場の構造を変化させ、Coinbaseのような配布プラットフォームからCircleのような規制された発行体へと価値をシフトさせる可能性があります。ステーブルコインの真の価値が決済インフラとしての役割にあることを踏まえれば、規制の整備はむしろ長期的な成長への追い風となります。2026年のCoinbaseとの契約再交渉が、この新しい力関係を占う最初の試金石となるでしょう。




