zk.moneyは、Ethereumから資金を預け、Aztec Network上で残高・送金額・受取人を公開せずに支払えるセルフカストディ型ウォレットです。 一方、Ethereum上の入金記録や出金後の動きまで消えるわけではありません。再始動したAlpha版を安全に試すには、公開領域と非公開領域の境界を理解する必要があります。
zk.moneyが3年ぶりに復活
Aztec Labsは2026年9月、プライバシー決済ウォレット「zk.money」を再始動しました。旧zk.moneyとAztec Connectは2023年に終了しており、今回の製品は現在のAztec Network上に構築された新しいウォレットです。
旧サービスは、Ethereumでプライベート送金やDeFiを利用できる先行事例として知られていました。しかしAztecは、当時のアーキテクチャではネットワークを十分に分散化し、複数の開発者が自由にアプリケーションを構築できる基盤へ発展させることが難しいと判断しました。単なるメンテナンス休止ではなく、基盤から作り直すための終了だった点が重要です。
新しいzk.moneyは、Aztec Labsが開発するアプリケーションであり、基盤にはプライベート状態とパブリック状態の両方を扱えるAztec Networkを利用します。旧Aztec Connectの残高やコントラクトをそのまま再開したものではないため、過去の製品と現在のネットワークを混同してはいけません。
Ethereum送金の何が非公開になるのか
通常のEthereumウォレットでは、アドレスを知っている第三者がブロックエクスプローラーを使い、残高、過去の送金先、受取額などを追跡できます。個人の支出履歴だけでなく、事業者の仕入れ先、報酬の支払先、資金管理の規模まで推測される可能性があります。
zk.moneyでは、資金をAztec Networkへ移した後の残高、支払額、送金相手を公開台帳から隠せるとAztec Labsは説明しています。Aztecのプライベート状態は「ノート」と呼ばれる暗号化データとして管理され、利用者は自分が正当な所有者であることをゼロ知識証明によって示します。公開チェーンへ取引の中身をそのまま掲載する方式とは異なります。
ただし、プライバシーは自動的に完全保証されるものではありません。Aztec公式ドキュメントも、プライベート関数からパブリック関数を呼び出す場合や、公開領域へ値を渡す場合には情報が露出すると注意しています。zk.money内の決済が非公開でも、その前後に利用するEthereumアドレスやDeFiアプリの挙動から関係性を推測される余地は残ります。
DAI・USDC・USDTを使う入金の流れ
CoinDeskの報道によると、利用者はEthereumからDAI、USDC、USDTをzk.moneyへ入金できます。ただし、USDCとUSDTは入金過程でDAIへ変換され、zk.money内部ではDAIが決済通貨として使われます。
この設計では、利用者がEthereum上で行う入金トランザクション自体は公開されたままです。たとえばMetaMaskなどのウォレットからUSDCを入金すれば、そのアドレスがUSDCを移動した事実はEthereum上で確認できます。その後のAztec Network内部における残高や支払いが非公開になる、という二段階の構造です。
また、USDCやUSDTを入れる場合はDAIへの変換が発生するため、単純な同一資産のブリッジとは異なります。利用前には、受取資産、変換経路、手数料、出金時に受け取る資産を画面上で確認すべきです。Aztec LabsはDAIを採用した理由として、Ethereumで広く使われるステーブルコインの中でも分散性を重視した選択だと説明していますが、DAI固有のスマートコントラクトリスクや価格乖離リスクが消えるわけではありません。
名前とリンクで送れるセルフカストディ型ウォレット
新しいzk.moneyでは、長いウォレットアドレスだけでなく、「bob.zk.money」のような読みやすい名前や支払いリンクを使って送金・請求できるとされています。名前にはEthereum Name Service(ENS)の技術が利用され、対応アプリとの連携も想定されています。
支払う側が複雑なアドレスをコピーする必要が減るため、日常的な請求や事業者間の支払いには分かりやすい仕組みです。ただし、表示名が正しい人物を指しているか、リンクのドメインが本物かを確認する工程は必要です。ENSを装った類似名やフィッシングリンクは、ゼロ知識証明では防げません。
zk.moneyはセルフカストディ型で、Aztec Labsは利用者の資金を運営側が使用、移動、凍結できないと説明しています。これは秘密鍵を管理する責任も利用者にあることを意味します。バックアップ情報を失った場合や、偽サイトで署名した場合に、運営会社が銀行のように取引を取り消せるわけではありません。
Alpha版で確認すべき制限とリスク
今回のzk.moneyは初期Alpha版です。CoinDeskによれば、入金、支払い、出金には少額の上限が設けられ、アドレスは制裁対応ポリシーに基づいてスクリーニングされます。また、ソフトウェアは完全な監査を終えた段階ではなく、Aztec Labsもセキュリティ上のリスクを明示しています。
Aztec Networkの公式ドキュメントにも、ネットワークは開発途上であり、現実世界の重要な秘密や大きな価値を安易に預けるべきではないとの注意があります。プライバシー機能が高度であることと、製品が十分に成熟していることは別の評価軸です。
利用する場合は、まず失っても生活や事業に影響しない少額で、入金、内部送金、出金までを一巡させるのが現実的です。zk.moneyのURLをブックマークし、接続するEthereumウォレットの署名内容を確認し、送金先名だけでなく最終的な受取情報も照合してください。監査状況、既知の不具合、ネットワーク障害時の出金手順について、Aztecの公式発表を継続的に確認することも欠かせません。
プライバシー決済を使う際の実践ポイント
第一に、Ethereumからの入金元を公開したくない場合でも、zk.moneyへ直接入金すれば、そのアドレスと入金操作の関係は公開チェーンに残ります。取引所からの直接送金に対応する構想も報じられていますが、取引所側には本人確認情報や出金記録が残るため、「誰からも追跡されない」と考えるのは誤りです。
第二に、出金先の再利用にも注意が必要です。Aztec Network内部の送金が非公開でも、同じEthereumアドレスへ繰り返し出金すれば、金額、時間、他の公開取引を組み合わせた分析の手掛かりになります。これはzk.moneyだけでなく、プライバシー機能を備えたオンチェーンアプリ全般に共通する問題です。
第三に、法令順守とプライバシーを対立概念として扱わないことが大切です。zk.moneyは制裁対象アドレスのスクリーニング方針を採用しており、セルフカストディだから無条件で利用できるわけではありません。事業用途では、経理記録、取引相手の確認、税務上必要な履歴を利用者自身が安全に保存する必要があります。
さらに、Aztecのウォレットはプライベートなノートを端末側で追跡し、秘密鍵やローカルデータを用いて処理します。ブラウザーのデータ消去、端末故障、バックアップ不足が資金アクセスにどう影響するかを、実際に資金を増やす前に確認すべきです。
まとめ
再始動したzk.moneyは、Ethereumの公開性を維持しながら、Aztec Network内部の残高、支払額、受取人を非公開にする決済手段です。DAI、USDC、USDTから入金でき、内部ではDAIを使い、名前やリンクによる支払いにも対応します。
一方で、Ethereum上の入出金、外部サービスの記録、利用者自身の行動まで不可視になるわけではありません。Alpha版には送金上限、アドレススクリーニング、未完了の監査といった制約もあります。zk.moneyを試すなら、セルフカストディの責任と公開・非公開の境界を理解し、少額で一連の操作を検証することが重要です。





