フランス国民議会は、暗号資産からMiCA上の電子マネートークンへ交換する取引を、2027年から課税対象にする修正案を採択しました。 採決は賛成38、反対37の1票差でした。ただし、これは予算審議の途中段階であり、現時点で法律として確定したわけではありません。 DEX・DeFi利用者にとって重要なのは、ユーロへ換金しなくても、USDCやEURCのような単一通貨連動型トークンを受け取る時点で課税関係が生じ得る点です。
1票差で採択された修正案の内容
Decryptが2026年10月20日に報じたのは、2027年予算法案に対する修正案I-3898です。フランス国民議会の公式記録によると、10月16日の採決には100人が参加し、賛成38、反対37、棄権25でした。有効投票75票に対する絶対多数は38票で、修正案は必要票数ちょうどで採択されました。
対象となるのは、暗号資産を譲渡し、その対価としてEUの暗号資産市場規則MiCAが定義する「電子マネートークン」またはそれに関する権利を受け取る取引です。MiCAでは、電子マネートークンを、単一の法定通貨の価値を参照して安定した価値を維持しようとする暗号資産と定義しています。したがって、規制上の要件を満たすドル連動型やユーロ連動型のステーブルコインが中心になります。
例えば、UniswapでETHをMiCA上の電子マネートークンに交換する場合、現在の「暗号資産同士の交換」という扱いから外れる可能性があります。一方、ETHからWBTCへの交換や、別の暗号資産を受け取る取引まで一律に課税する案ではありません。重要なのは銘柄の通称ではなく、受け取る資産がMiCA上の電子マネートークンに該当するかどうかです。
現行制度との違いは「法定通貨に替える前」の課税
フランス税務当局の案内では、個人が私有財産を管理する範囲で行う暗号資産取引について、対価を伴わない暗号資産同士の交換は課税繰り延べの対象です。通常は、ユーロなどの法定通貨に換金したり、商品・サービスの支払いに使ったりした段階で損益を計算します。
修正案は、この繰り延べから電子マネートークンを受け取る交換を除外します。つまり、Curveの流動性プールから電子マネートークンを受け取る、Uniswapで値動きの大きいトークンをステーブルコインへ退避する、といった操作でも、法定通貨を銀行口座へ出金する前に課税取引となる可能性があります。
ここで注意したいのは、DeFi上のすべての操作が直ちに課税されると決まったわけではないことです。Aaveへの担保預け入れ、借り入れ、CurveのLPトークン受領、ブリッジによる移動などは、法的に「譲渡」と評価されるか、何を対価として受け取ったかによって扱いが変わり得ます。修正案の採択だけから、各プロトコル操作の課税結果を一律に断定することはできません。
損益計算はポートフォリオ方式から銘柄別方式へ
修正案には、課税タイミングだけでなく、取得価額の計算方法を組み替える内容も含まれます。課税対象となる損益は、原則として譲渡価格と取得価格の差額です。同じ種類の暗号資産を異なる価格で複数回取得している場合は、加重平均した取得価格を使います。
例えば、複数回に分けて取得したETHの一部をUniswapで対象ステーブルコインへ交換する場合、交換したETHに対応する取得価格を加重平均で求め、受け取ったトークンの価値との差を計算する構造です。従来のポートフォリオ全体を基礎にした計算よりも、銘柄ごとの取得履歴が重要になります。
また、課税繰り延べが適用された交換では、受け取った暗号資産に元の取得価格を引き継ぎます。繰り延べが適用されない交換では、その交換時の損益計算に使った価値が新たな取得価格の基礎になります。ETH、UNI、CRVなどを複数のウォレットや取引所で管理している利用者には、取引履歴を横断して整理する作業が必要になる可能性があります。
2027年以前の保有分には一度限りの選択肢
2027年より前に取得した暗号資産について、修正案は移行措置を設けています。納税者は、各暗号資産の実際の取得価格を資料で立証する方法と、2026年12月31日時点のポートフォリオ総取得価格を、同日時点で保有する各資産の価値に応じて配分する方法のいずれかを選びます。
この選択は、2027年1月1日以後の最初の申告時に行い、撤回できない設計です。したがって、MetaMaskなどのセルフカストディウォレット、中央集権型取引所、Ledgerなどのハードウェアウォレット、UniswapやAaveを使ったオンチェーン履歴を、後から追跡できる形で保全する重要性が高まります。
実務では、トランザクションハッシュだけでなく、取得時刻、取得数量、手数料、交換時の対価、利用したウォレットを記録しておく必要があります。ブリッジで同じ資産を別チェーンへ移しただけなのか、ラップドトークンとの交換が発生したのかも区別すべきです。ただし、どの証拠が税務上十分かは個別事情によるため、申告前にはフランスの税務専門家へ確認するのが安全です。
DEX・DeFi利用者が今から確認すべきこと
第一に、利用しているステーブルコインの法的位置付けを確認します。「ドル連動」「ユーロ連動」という表示だけでは、MiCA上の電子マネートークンに該当するかは確定しません。発行者の公式開示とEU域内での提供条件を確認する必要があります。USDCやEURC、USDTなど、銘柄ごとに同じ扱いになると決めつけるべきではありません。
第二に、Uniswap、Curve、Aaveなどの履歴をウォレット単位ではなく、納税者単位で集約できるようにします。DEXのスワップ、流動性供給、報酬請求、担保の預け入れ、借り入れは、画面上では一連の操作に見えても、オンチェーンでは複数のトランザクションに分かれる場合があります。税務記録では、それぞれの資産移転の意味を説明できることが重要です。
第三に、法案の成立過程を追います。今回確認できたのは、国民議会が個別修正案を採択した事実です。予算法案全体の審議、上院での審議、両院間の調整などが残るため、文言が修正されたり、最終法から削除されたりする可能性があります。2027年施行を前提に売買を急ぐのではなく、成立した最終条文と税務当局の実務指針を確認することが先決です。
税制変更がDeFi市場に与え得る影響
修正案が最終成立すれば、フランス居住者にとってステーブルコインは、単なる価格変動回避の手段ではなく、損益確定の契機になり得ます。相場下落時にETHやUNIをステーブルコインへ移す判断、Curveで安定資産の流動性を調整する判断、Aaveで借りた資産を別トークンへ交換する判断に、税務記録の負担が加わります。
ただし、税制変更がUniswapやCurveの流動性、ステーブルコインの利用量、暗号資産価格をどの程度動かすかは、今回の採決結果だけでは分かりません。影響は最終法の対象範囲、執行指針、利用者の居住地、プロトコルごとの取引構造によって異なります。特に、スマートコントラクトの操作を「交換」「貸付」「担保設定」のどれとして扱うかは、法文だけでなく税務解釈も確認する必要があります。
利用者側の現実的な対応は、法案を材料に売買判断を急ぐことではなく、履歴を失わないことです。複数チェーンを使う場合は、ブロックエクスプローラーへのリンク、CSV、ウォレット署名による所有証明などを整理し、後から取引の意味と取得原価を再構成できる状態にしておくべきでしょう。
まとめ
フランス国民議会は、暗号資産からMiCA上の電子マネートークンへの交換を2027年から課税対象とする修正案I-3898を、賛成38、反対37で採択しました。修正案は銘柄別の取得価格計算と、2027年以前の保有分に対する撤回不能の移行選択も盛り込んでいます。
Uniswap、Curve、Aaveなどを利用するフランス居住者には、ステーブルコインへの交換時点と取得原価の記録がこれまで以上に重要になります。ただし、修正案はまだ最終的な法律ではありません。実務対応は、成立後の最終条文、MiCA上の各トークンの位置付け、フランス税務当局の指針を確認したうえで進める必要があります。





