米証券取引委員会(SEC)は、実在する米国上場株式と同等の権利を持つトークン化株式を、許可型の自動マーケットメーカー(AMM)で取引できる時限的な制度を公表した。
今回の措置はトークン化株式を全面的に自由化するものではない。SECが認めたのは、株価への連動だけを目的とする合成型商品ではなく、配当・議決権などを実株式と同様に扱える仕組みである。
SECが公表した「Innovation Exemption」とは
SECは2026年9月17日、Tokenized Securities Venue(TSV)と呼ばれる取引基盤に対し、1934年証券取引所法上の「取引所」の定義から一時的かつ条件付きで除外する命令を公表した。制度の有効期間は公表から5年間であり、その間にSECは実際の運用データや市場参加者の意見を集め、恒久的な規則が必要かを検討する。
TSVは、不特定多数が無条件で利用できる従来型DEXとは異なる。参加資格を確認したウォレットだけがアクセスできる許可型AMMや流動性プールを提供し、トークン化されたNMS株式の売買を成立させる仕組みだ。スマートコントラクトは監査可能かつ公開された状態で、パブリックかつパーミッションレスな分散型台帳上に展開する必要がある。
対象銘柄と取引量には上限も設けられた。LULDプランのTier 1では最大75銘柄で、各銘柄の前月平均出来高に対するTSV上の平均出来高は0.25%まで。Tier 2では最大250銘柄、出来高比率は2.5%までとなる。上場市場で原株の取引が停止された場合、TSVも同時に当該トークンの取引を止めなければならない。
つまり今回の制度は、米国株を無制限にオンチェーン化する解禁策ではない。銘柄数、出来高、参加者、情報開示を管理した実証実験に近い。
対象になるのは「実株式の権利」を持つトークン
SECが重視しているのは、トークン保有者が従来の同一クラス株式と同等の権利を得られるかどうかだ。具体的には、企業に対する同等の持分、配当を受け取る権利、議決権、清算時の残余財産に対する権利などが確認対象になる。
想定される方式の一つは、発行企業またはその代理人が株式を直接トークン化する「発行体主導型」だ。もう一つは、第三者が実株式を保管し、その株式に対する直接または間接の権利をトークンとして表す「カストディ型」である。後者の場合も、単に価格を連動させるだけでは足りず、株主としての権利が適切に移転・提供されなければならない。
この点で、実物資産のトークン化基盤を提供するSecuritize、オンチェーン金融商品を扱うSuperstate、株式を裏付け資産として保管するモデルを展開するDinariなどには事業機会が生まれる可能性がある。CoinDeskは取引インフラ側の候補としてBullishにも言及している。
ただし、SECがこれらの企業を個別に承認したわけではない。各社がTSVとして制度を利用できるかは、権利構造、カストディ、情報開示、技術管理などの条件を満たせるかによって決まる。
Robinhood・Kraken・Ondoの合成型商品は対象外
今回の適用除外では、第三者が自ら発行し、特定株式の値動きだけを再現する合成型トークンはTokenized NMS Stockに含まれない。SEC文書は、株式連動証券やトークン化されたセキュリティベースド・スワップなどを明示的に対象外としている。
この区別は投資家にとって重要だ。例えば、Apple株の価格に連動するトークンを持っていても、Appleの株主名簿や証券口座上で株主として扱われるとは限らない。配当相当額が支払われても、それが企業から株主へ支払われる配当なのか、商品発行者との契約に基づく支払いなのかで法的性質は異なる。議決権や発行者破綻時の保護にも差が出る。
CoinDeskは、Robinhood、Kraken、Ondo Financeが提供する価格連動型の商品を、現行形態のままでは今回の枠組みに入らない例として挙げた。これらのサービスが米国市場で同制度を利用するには、実株式の保有関係や株主権を反映できる商品へ設計を変更する必要がある。
対象外であることは、直ちに商品が違法または無価値だという意味ではない。重要なのは「トークン化株式」という名称だけで判断せず、実株式の所有権、カストディ先、償還条件、配当・議決権、発行者の信用リスクを確認することだ。
UniswapなどのDEXに生まれる機会と制約
制度は、トークン化株式をAMM流動性プールで取引する道を設けた。このため、Uniswap、Aerodrome、RaydiumのようなAMM技術を持つプロトコルや、その開発企業・インテグレーターには新しい市場が開ける可能性がある。基盤となるネットワークでは、Ethereum、Solana、BNB Chainなどが候補になり得る。
しかし、現在のパーミッションレスなプールへ米国株トークンを追加すればよいわけではない。TSVは参加基準を定め、許可されたウォレットだけにアクセスを限定する必要がある。マネーロンダリング対策、経済制裁対応、利用資格の確認、取引制限、記録保存なども考慮しなければならない。
そのため実装は、公開ブロックチェーン上のスマートコントラクトと、オフチェーンの本人確認・コンプライアンス基盤を組み合わせる形が有力だ。Uniswapの既存フロントエンドや誰でも作成できる通常プールが、そのままTSVとして扱われるわけではない。
また、SECはTSVに対し、価格、数量、時刻、プールアドレス、日次出来高など米ドル建ての取引情報を定期的に公開する考えを示している。DeFiの透明性を利用しながら、従来市場に近い監視体制を構築する設計といえる。
流動性提供者にも条件付きの適用除外
AMMが機能するには、株式トークンや決済資産をプールへ供給する流動性提供者が必要だ。SECは今回、自己資金でトークン化NMS株式を供給する一定の事業者に対し、「ディーラー」の定義から条件付きで除外する枠組みも設けた。
対象となる流動性提供者は、TSVのAMMに関連する活動へ範囲を限定し、顧客資産を保管せず、自己勘定で取引する必要がある。流動性供給、TSVとの契約、受領した手数料・インセンティブ、損失に備える流動資産などの記録も求められる。
これは、専門的なマーケットメーカーや暗号資産市場の流動性事業者にとって参入経路になり得る。一方、AMM特有の価格乖離、スマートコントラクト障害、原市場の取引停止、ブロックチェーンの混雑といったリスクは残る。原株市場とオンチェーン市場の価格差を縮める裁定取引も重要になるが、取引量上限やアクセス制限の下で十分な流動性を確保できるかは、実運用を見なければ判断できない。
投資家が確認すべき5つのポイント
第一に、トークンが実株式そのもの、株式に対する権利、または価格連動商品という三つのうち、どれに該当するかを確認したい。名称ではなく、公式文書に記載された法的権利を見る必要がある。
第二に、配当と議決権の扱いだ。SecuritizeやDinariなど異なる方式を比較する場合も、配当の受領経路、議決権行使の手続き、株主向け資料の提供方法まで確認する。
第三に、カストディと償還である。実株式を誰がどこで保管し、トークンを実株式や現金へ交換できるのか、発行者または保管機関が破綻した場合にどのような請求権が残るのかが重要だ。
第四に、利用できる時間と市場停止ルールを確認する。ブロックチェーンが常時動作していても、TSVが常に株式取引を提供するとは限らない。原株が主要取引所で停止されれば、対応するトークンも停止対象となる。
第五に、流動性と価格形成を見る。Uniswap型のAMMではプール残高や価格計算方式が約定価格へ影響する。原株価格と乖離する可能性、スリッページ、手数料、償還コストを含めて比較すべきだ。
まとめ
SECのInnovation Exemptionは、米国で実在する上場株式をオンチェーン取引するための具体的な経路を初めて示した。恩恵が期待されるのは、SecuritizeやSuperstateのようなトークン化事業者、条件を満たすDinari型のカストディ事業者、Bullishなどの取引基盤、そしてUniswap、Aerodrome、Raydiumに関連するAMM技術や流動性提供者である。
一方、Robinhood、Kraken、Ondo Financeなどが扱う価格連動型の合成商品は、現行の枠組みでは対象外だ。制度の核心は「株価を再現できるか」ではなく、「実株式と同等の権利を持つか」にある。
5年間の措置は恒久的な承認ではなく、銘柄数・出来高・参加者を限定した実験である。投資家はトークンという形式だけに注目せず、株主権、カストディ、償還、取引停止、流動性の仕組みを確認したうえで利用を判断する必要がある。





