スタンダードチャータード銀行は、ArbitrumのガバナンストークンARBが2030年末までに10ドルへ上昇する可能性があるとの見通しを公表しました。予測の中心にあるのは、Robinhood Chainなどの専用ネットワークからArbitrumエコシステムへ入る収益です。
ただし、現時点でARB保有者がその収益を直接受け取れる仕組みはありません。今回の強気予測は、将来のトークン化需要と価値還元制度の発展を前提とした長期シナリオとして読む必要があります。
スタンダードチャータードがARBを10ドルと予測
CoinDeskによると、スタンダードチャータード銀行は2026年9月15日、ArbitrumのARBに関するカバレッジを開始し、2030年末の価格目標を10ドルに設定しました。記事掲載時の価格は約0.14ドルであり、目標価格はおよそ70倍に相当します。
同行のデジタル資産調査責任者Geoffrey Kendrick氏は、Robinhoodのような企業が独自チェーンを構築する際にArbitrumの技術基盤を利用することで、Arbitrumエコシステムが継続的な収益を得られる点を評価しています。
報道当時、暗号資産市場全体が軟調だった一方で、ARBは過去24時間に約7%上昇しました。ただし、短期的な値動きと2030年までの価格目標は分けて考えるべきです。10ドルという数字は確定した将来価格ではなく、銀行の分析モデルに基づく予測にすぎません。
Robinhood ChainがArbitrumの収益を押し上げる
強気予測の主要因は、Robinhood Chainから生まれる収益です。CoinDeskが紹介した同行の分析では、同チェーンの稼働により、Arbitrumの2026年9月の収益は月間約500万ドルのランレートへ向かっており、7月のチェーン公開前と比べて5倍超の水準になったとされています。
Robinhood Chainは、Ethereum上に構築されたArbitrum系のレイヤー2です。Robinhoodの公式ドキュメントでは、Arbitrum Dedicated Blockchainsを利用し、Ethereumのセキュリティを活用しながら高い処理能力と低コストを目指すネットワークと説明されています。ガス代にはARBではなくETHを使用します。
同チェーンはEVM互換であり、SolidityやVyperで書かれたスマートコントラクトを標準的なEthereum開発ツールから展開できます。この互換性は、既存のDeFiプロトコルやウォレット、開発者が参入する際の技術的障壁を下げる要素です。
伝統金融のトークン化が成長シナリオの中核
スタンダードチャータードの長期的な投資仮説は、Robinhood Chainの現在の取引量だけではなく、株式やETF、プライベート資産などをブロックチェーン上で扱う「資産のトークン化」にあります。
Robinhoodの公式資料も、同チェーンが現実資産、いわゆるRWA向けに最適化されていると説明しています。対象として株式、ETF、非公開資産などを挙げ、プログラム可能な取引、自己管理、常時アクセスできる金融基盤の構築を掲げています。
Arbitrum側にもRWAの実績があります。Arbitrum Foundationの2025年透明性報告書によると、DAOのSTEPプログラムではBlackRock、Franklin Templeton、WisdomTreeなどの資産運用会社が提供する商品を含め、3,000万ドル超の機関投資家向けRWAを管理していました。
Robinhood Chainにおける株式トークン化と、Arbitrum DAOが進めてきたRWA施策は別の取り組みです。しかし、企業向け専用チェーンとオンチェーン資産運用の双方にArbitrum技術が利用されれば、伝統金融がブロックチェーンへ移行する際の有力な基盤になるというのが、今回の予測の骨格です。
ARB保有者は収益を直接受け取れない
最も重要な注意点は、Arbitrum関連チェーンの収益増加とARBトークンの価値が、現在は直接連動していないことです。
CoinDeskによると、Robinhood Chainは純プロトコル収益の10%をArbitrumエコシステムへ支払い、その内訳は8%がDAOトレジャリー、2%が開発者向けファンドです。しかし、ARB保有者へ直接分配される部分は現時点でありません。
ARBは主にArbitrum DAOのガバナンスに使われます。保有者は提案や投票を通じてエコシステムの方針に関与できますが、株式の配当や一部DeFiトークンの手数料分配とは性質が異なります。ネットワーク収益が増えても、それだけでARBの需要や保有者のキャッシュフローが自動的に増えるわけではありません。
将来、DAOが収益をARBの買い戻し、ステーキング報酬、エコシステム助成、流動性支援などに利用する可能性はあります。ただし、具体的な制度は正式なガバナンス提案と承認が必要です。未決定の還元策を既成事実として価格評価へ組み込むべきではありません。
現在の利用実態と長期構想には隔たりもある
Robinhood Chainは伝統資産のトークン化を主要目的に掲げていますが、CoinDeskは、初期の活動の多くがミームコインのローンチパッドや取引アプリから生まれていると伝えています。
これは直ちに否定材料とはいえません。UniswapをはじめとするDEXやオンチェーン取引アプリは、新しいチェーンへ利用者と流動性を呼び込む入口になるからです。一方、短期的な投機取引による手数料収入を、機関投資家によるトークン化資産の長期需要と同一視することもできません。
投資家が確認すべきなのは、取引件数の増加だけではなく、その中身です。トークン化株式やRWAの残高、継続利用する開発者、DEXの流動性、アプリケーションの定着度などを追う必要があります。ネットワークの目的と実際の利用構成が近づいているかが、同行の長期シナリオを検証する材料になります。
ARBの見通しを判断する際の主要リスク
スタンダードチャータード自身も、ARB保有者に収益請求権がない点をリスクとして挙げています。それ以外にも、トークン化の普及が想定より遅れる可能性や、他のブロックチェーンとの競争があります。
企業向けチェーンの分野では、Arbitrumだけでなく、Optimism系の技術、Ethereumの各種レイヤー2、Solanaなどが採用を競っています。Robinhood Chainが成功しても、別の金融機関が同じ基盤を選ぶとは限りません。
技術面では、Robinhood ChainがEthereumのデータ可用性やArbitrum Nitroを利用する一方、運営・ガバナンス構造も確認が必要です。公式文書によると、プロトコルは8席のSecurity Councilによって管理され、通常の操作には8名中6名、緊急操作には8名中7名の承認が必要です。完全に同一条件のパブリックチェーンではなく、金融サービス向けの管理構造を備えたネットワークとして評価すべきでしょう。
また、ARB価格にはトークン供給、DAO支出、市場全体の流動性、規制、競合チェーンの成長も影響します。Robinhood Chainの売上だけから将来価格を算出するのは不十分です。
まとめ
スタンダードチャータードは、Robinhood Chainなどの専用ネットワークが生む収益と、伝統資産のトークン化需要を根拠に、ARBが2030年末までに10ドルへ上昇する可能性を示しました。Robinhood ChainがArbitrum技術を採用し、エコシステムへ収益を還元していることは、Arbitrumの事業モデルを考えるうえで重要な変化です。
一方、ARB保有者には現時点で収益の直接分配がなく、初期利用もトークン化資産より取引アプリやミームコイン関連に偏っています。読者は価格目標だけで判断せず、Robinhood Chainの利用構成、RWAの成長、DAOトレジャリーの資金用途、ARBへの価値還元制度が実際に整備されるかを継続的に確認する必要があります。





