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テザーがMuralへ出資、AI決済基盤とDeFiの接点を解説
エージェンティック・ファイナンス·8分で読める

テザーがMuralへ出資、AI決済基盤とDeFiの接点を解説

SSatoshi.K(dex.jp編集部)公開日: 2026-10-22

📋 この記事のポイント

  • 1テザー主導でMuralがシリーズAを実施。
  • 2AIエージェントが企業決済を行う「エージェンティック・ファイナンス」の仕組み、統制機能、DEX・DeFiへの影響と導入時の確認点を公式情報から詳しく整理します。
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AIエージェントが人や企業の委任を受け、条件付きで支払いまで実行する仕組みを「エージェンティック・ファイナンス」と呼ぶ。 今回のMuralへの出資は、生成AIそのものではなく、銀行・ブロックチェーン・本人確認・承認ルールをつなぐ決済基盤への投資だ。DEXやDeFiにとっては資金流入の可能性を示す一方、直ちにオンチェーン取引が自動化されるという発表ではない。

テザー主導の資金調達で何が発表されたのか

Muralは2026年10月20日、Tether(テザー)が主導する1,500万ドルのシリーズAを完了したと発表した。North Island Venturesと既存投資家も参加し、累計調達額は2,800万ドルとなった。CoinDeskは翌21日、この資金調達を、AIエージェントによる支払いを支える技術へのテザーの投資拡大として報じた。

ニューヨークに本拠を置くMuralは、Palantirの元エンジニアであるSinclair Toffa氏とChris Fernandes氏が創業した金融インフラ企業だ。銀行、決済事業者、本人確認、規制対応、ブロックチェーンを個別に継ぎ合わせるのではなく、口座・送金・ID・権限・コンプライアンスを一つの記録基盤で管理することを目指す。顧客例には、給与関連のDeel、ブラウザー開発のOpera、金融サービスのAxexoが挙げられている。

資金の用途としてMuralが示したのは、送金・保管・資金運用を支える基盤の強化、人材採用、ライセンスとコンプライアンス対応地域の拡大、市場追加である。したがって今回の発表は、USDTの新チェーン対応や、特定DEXとの提携、独自トークンの発行を意味しない。報道見出しだけで「テザーがAI取引ボットを開始した」と解釈するのは正確ではない。

Muralはどのような決済インフラを提供するのか

Muralの中核は、フィンテック企業や各種プラットフォームが金融商品を構築するための「コンプライアンス対応のシステム・オブ・レコード」だ。同社サイトによると、法定通貨とステーブルコインの保管、ローカル通貨での入出金、本人確認、口座残高、支払い履歴を同じ運用画面とAPIから扱う設計になっている。Deelは給与・送金、Operaなどは利用者向け金融機能の基盤としてMuralを利用している。

Muralは2025年にAPIを公開して以降、128カ国のエンドユーザー向けに21億ドルの決済を処理したと公表している。また、2026年の発表時点までの取扱高は2025年通年の約6倍としている。これらはMural自身が開示した事業実績であり、オンチェーンだけの取引高や、USDTだけの決済額ではない点に注意が必要だ。銀行ネットワーク、ローカル決済、ブロックチェーンをまたぐ総合的な処理実績として読むべきである。

この構造はUniswapのようなDEXとは役割が違う。Uniswapの中心は、流動性プールを保有し、スマートコントラクトでスワップを実行するAMMだ。一方のMuralは、企業が誰の資金を、どの権限で、どの相手へ移動できるかを管理する業務基盤である。両者は競合というより、企業側の決済管理層とオンチェーンの交換・流動性層という別の位置にある。

エージェンティック・ファイナンスで重要になる統制

AIが請求書を読み、支払期日を判断し、送金先を選んで決済を実行する場合、便利さより先に権限設計が必要になる。Muralは、口座ごとの上限、承認済み取引相手、大きな支払いへの追加承認、各操作の監査証跡を用意している。AIに秘密鍵や銀行口座への無制限アクセスを渡すのではなく、企業が定めた範囲内だけで動かす考え方だ。

例えばDeelのような給与プラットフォームでは、AIが支払候補を作成できても、未登録の受取人への送金は止め、一定条件を超える支払いは担当者の承認へ回す、といった運用が考えられる。Operaのように多数の利用者へ金融機能を提供するサービスでも、本人確認の状態、地域、通貨、取引相手ごとに権限を分ける必要がある。Muralの価値は、AIの判断能力そのものではなく、その判断を既存の銀行・決済・規制対応へ安全につなぐ点にある。

ただし、統制機能があっても責任問題は消えない。誤った請求書、プロンプトインジェクション、乗っ取られた取引先、誤設定された上限、承認者アカウントの侵害などは別途対策が必要だ。TetherのPaolo Ardoino CEOも、AIエージェントが資金を動かすようになるほど、銀行、決済ネットワーク、コンプライアンス基盤との接続が不可欠になるとの趣旨を述べている。

DEX・DeFiにどのような影響が考えられるか

DEX・DeFiへの最も現実的な波及は、企業の資金管理とオンチェーン流動性の間に、監査可能な入口が整うことだ。たとえば企業がMuralのような基盤で支払い権限を管理し、必要な場合だけステーブルコインを送付する設計なら、Uniswapでの交換やAaveへの資産供給といったオンチェーン操作を、社内ルールの対象として扱いやすくなる可能性がある。

ただし、MuralとUniswap、Aaveの直接統合は今回の発表内容ではない。UniswapはAMMによる交換基盤、Aaveは資産の供給と担保付き借り入れを扱うプロトコルであり、Muralが提供する企業口座・決済管理とは機能が異なる。AIエージェントが将来これらを利用する場合も、スワップの価格影響、スリッページ、流動性、借り入れの担保状態、清算リスクを別に監視しなければならない。

また、ステーブルコイン決済の拡大が、そのままDEXの出来高増加につながるとは限らない。企業決済は同一通貨の送金だけで完結することもあり、銀行や中央集権型の交換経路が使われる場合もある。今回のニュースが示すのは、AIとステーブルコインを企業実務へ接続するインフラ需要であり、特定DeFiトークンの価値上昇を保証する材料ではない。

企業と開発者が確認すべき実務ポイント

導入を検討する企業は、まずAIに任せる行為を細かく分解すべきだ。請求書の読み取り、受取人照合、支払案の作成、通貨選択、署名、送信は別の権限である。Muralの上限・承認済み取引先・追加承認を利用する場合でも、最終署名権限をどこに置くか、緊急停止を誰が実行するか、監査ログをどの期間保管するかを自社で決める必要がある。

次に、法定通貨とステーブルコインの経路を分けて検証する。Muralは銀行関係や各地域の決済レールを扱う一方、ブロックチェーン送金にはチェーン停止、混雑、アドレス誤り、トークン発行体、スマートコントラクトといった固有リスクがある。Uniswapを経由するなら許容スリッページと最低受取額、Aaveを使うなら担保率と清算条件を、AIの自然言語判断ではなく決定的なルールとして実装するのが基本になる。

最後に、例外処理を人へ戻す設計が重要だ。Muralの追加承認は有効な部品だが、制裁・不正検知のアラート、受取人情報の不一致、通常と異なる金額や頻度を検出した際に、自動処理を止められなければならない。小額・限定された取引先・テスト環境から始め、実運用では権限を段階的に広げる方が現実的だ。

今回のニュースを評価する際の注意点

今回確認できたのは、TetherがMuralのシリーズAを主導したこと、Muralが企業向け金融インフラを提供していること、AIエージェント向けに権限管理を適用する方針である。Tetherによる出資は、ステーブルコイン発行会社が発行残高だけでなく、実際の決済・コンプライアンス・銀行接続へ関心を広げている事例として重要だ。

一方で、AIエージェントによる金融実務はまだ運用設計が問われる領域である。Muralが公表する処理実績は同社全体の決済基盤に関する数字であり、AIが自律実行した金額ではない。North Island Venturesの参加や既存顧客の存在も、将来の収益性、規制対応の完全性、事故の不存在を保証しない。

DEX・DeFiの読者は、資金調達額だけでなく、どの権限がオンチェーンへ渡るのか、誰が取引を停止できるのか、監査証跡と秘密鍵管理が分離されているかを見るべきだ。Muralのような企業向け統制層が発展すれば、DeFiを業務へ組み込む障壁が下がる可能性はあるが、プロトコル固有のリスクまで肩代わりするわけではない。

まとめ

Tether主導のMuralシリーズAは、AIと決済を結びつけるうえで、銀行・ブロックチェーン・本人確認・承認ルールを統合する基盤が重要になっていることを示した。MuralはDeel、Opera、Axexoなどの金融機能を支え、AIエージェントにも口座上限、取引相手制限、追加承認、監査証跡を適用する方針だ。

DEX・DeFiにとっての焦点は、AIが自由に取引する未来ではなく、企業が許可した範囲だけでUniswapやAaveのようなオンチェーン機能へ接続できるかにある。今回、両プロトコルとの直接連携は発表されていない。投資判断ではなく、権限管理、規制対応、流動性、清算、スマートコントラクトの各リスクを分けて検証することが欠かせない。

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