Vault12の事例は、開発側が過去の約束を終えても、トークンの証券法上の扱いが自動的に確定するとは限らないことを示した。 中央集権型取引所(CEX)が求めるのは、発行体の自己判断だけでなく、SECが後から異議を唱えないという予見可能性である。 SECのセーフハーバー案は出口を示したが、Vault12は異議申立ての期限がないため、上場審査の不安を十分に解消できないと主張している。
Vault12のVGTが投げかけた問題
CoinDeskが2026年10月21日に報じた中心人物は、暗号資産ウォレットのバックアップ技術を提供するVault12だ。同社は2018年、将来トークンを受け取る契約を通じて38人から17,448,246ドルを調達した。対象となるVault Guardian Token(VGT)は、同社のSEC提出意見書によると、2018年11月14日の配布後、CEXを含む取引会場で一度も売買されていない。
Vault12は、当時のホワイトペーパーに記載した37件の約束について、実行するか、恒久的に中止したと説明している。残っていた報酬関連の機能も2026年7月までに提供し、不要になったリレー運営者向け補助は終了したという。それでも、VGTの上場を検討した取引所は「SECが後から古い投資契約との結び付きを主張しないと、どう判断できるのか」と確認を求めた。
この事例は、プロジェクトが技術的なロードマップを完了したかどうかと、取引所が法務リスクを受け入れられるかどうかが別問題であることを示す。UniswapのようなDEXでは、スマートコントラクト上に市場を作ることと、CEXが社内審査を経て銘柄を採用することは同じではない。VGTがDEXで流通しているという意味でもなく、取引経路の違いを理解するための比較である。
SECのセーフハーバー案は何を変えるのか
SECは2026年8月、Regulation Crypto Assetsを提案した。提案規則400の条件を満たせば、暗号資産が過去に結び付いていた投資契約の対象ではないと扱う道筋を設ける。発行体は、過去に表明・約束した本質的な経営努力を完了するか恒久的に停止し、新たな同種の約束を行わず、今後行う意図もないことが求められる。
利用する発行体は、移行報告書Form TRをEDGARで提出する。そこには対象となる投資契約と暗号資産の説明、条件を満たしたとの証明、その判断を支える分析を記載する。新制度向けの資金調達免除を使っていない旧来の発行体も、条件を満たせば利用対象になり得るというのが提案文書の説明だ。したがって、VGTのように過去のSAFTを起点とする案件にも関係する。
ただし、これは2026年10月時点で最終規則ではなく提案である。UniswapやAaveなど、すでにDeFiで利用されているプロジェクトの各トークンが、この規則だけで一律に非証券と確定するわけでもない。各案件について、過去の販売方法、発行体の約束、継続する経営努力を個別に確認する必要がある。
CEXが上場に慎重になる理由
Vault12が問題視するのは、Form TRを提出した後もSECの異議申立てに期限が設けられていない点だ。SEC案は、実際に条件を満たしている場合に限ってセーフハーバーが適用されるとしている。証明が不正確なら、SECは投資契約が終了しておらず、証券法上の義務が続いていると判断できる。また、条件を満たしても、第三者が別の訴訟などで証券性を主張することまでは妨げない。
CEXの立場では、上場時点で発行体の説明を信用しても、後日のSEC判断で前提が変わる可能性が残る。審査部門は、取引量や利用者需要だけでなく、自社が未登録の取引所やブローカーとして扱われる危険を検討する。その結果、事業実績があるVGTでも、法的な最終性が不足していれば採用を見送る判断が合理的になり得る。
対照的に、UniswapなどのDEXでは、プロトコル上に流動性プールを作れること自体がCEXの上場承認を意味しない。流動性提供者が存在しなければ実用的な市場にならず、価格変動、流動性の薄さ、スマートコントラクトの危険も残る。「DEXで取引可能なら規制問題が解決した」と考えるのは適切ではない。
Vault12が求める60日ルール
Vault12は、SECによる事前承認ではなく、期限付きの異議申立て制度を提案した。適切なForm TRの提出後60日以内にSECが異議を通知しなければ、その提出内容をSECに対して確定的なものとする案だ。期限後の見直しは、詐欺、重要な虚偽記載や欠落、隠された約束などが示された場合に限るとしている。
同社はさらに、後日の異議が認められる場合でも、公示前に善意で完了した第三者の取引まで遡って扱いを変えないよう求めた。狙いは、CEXが上場審査で参照できる明確な時点を作ることにある。ただし、60日ルールはVault12の提案であり、SECの現行案に採用された確定規則ではない。
この区別はDeFiでも重要だ。Aaveの担保資産、Curveの流動性プール、Uniswapの取引ペアに旧トークンを組み込む場合、技術的に統合できるかだけでは足りない。運営主体、フロントエンド、流動性提供者、利用者がそれぞれ負う法的・市場的な危険を分けて評価する必要がある。
DEX・DeFi利用者が確認すべき点
第一に、Form TRの提出とSECの承認を混同しないことだ。現行提案では、提出したという事実だけでSECの将来の異議が封じられるわけではない。VGTに関するVault12の説明も、SECが内容を認定したという意味ではない。SECのEDGAR提出資料、最終規則、執行上の告知を別々に確認する必要がある。
第二に、CEX未上場を「過小評価されている証拠」と解釈しないことだ。上場しない理由には、法務審査だけでなく、流動性、保管、技術統合、市場監視など複数の要素があり得る。VGTの場合、Vault12は法的な最終性が中心的な質問だったと述べているが、他のトークンにも同じ説明を当てはめることはできない。
第三に、DEX上の取引可否と資産の安全性を分けて見る。Uniswapでペアを作成できても、十分な流動性や公正な価格形成は保証されない。AaveやCurveのようなDeFiプロトコルで利用できるかどうかも、各プロトコルのリスク管理やガバナンス判断に左右される。コントラクト監査、権限構造、オラクル、保有集中、売却可能性を確認し、法的な不確実性と技術・市場リスクを重ねて評価することが欠かせない。
旧トークン市場に与える影響
Regulation Crypto Assetsが最終化され、終了条件とForm TRの効果が明確になれば、VGTのような旧案件には整理の手順が生まれる。発行体は、過去の約束が何で、どこまで履行し、何を恒久的に中止したかを公開できる。CEX、カストディ事業者、マーケットメーカーも、共通資料を基に審査しやすくなる。
一方、SECが異議を申し立てられる期間や、善意の第三者がどこまで保護されるかが曖昧なままなら、CEXは保守的な判断を続ける可能性がある。DEX側でも、UniswapやCurveの市場が存在するだけでは、発行体の過去の資金調達や約束に関する問題は消えない。流動性の移動先がCEXからDEXへ変わるだけで、法的な評価まで自動的に変わるわけではない。
HederaもSECへの意見書で、旧来の発行体にとって「本質的な経営努力」の境界が明確でなければ、保守、セキュリティ修正、更新が投資契約を再び結び付けるのか判断しにくいと指摘した。VGTだけの特殊事情ではなく、成熟したネットワークが継続保守と規制上の出口をどう両立させるかという制度設計の課題である。
まとめ
Vault12のVGTがCEXに上場していない理由として、同社はSECによる後日の異議を排除できないことを挙げた。SEC案は、約束した本質的な経営努力を終えた発行体にForm TRという出口を示す一方、提出内容への異議申立て期限や第三者に対する完全な免責までは定めていない。
Vault12の60日案は、発行体の自己判断と取引所が必要とする最終性の間を埋める提案である。ただし、まだ採用済みの規則ではない。DEX・DeFi利用者は、CEX上場の有無やDEXでの取引可否だけで判断せず、SECの最終規則、Form TRの内容、流動性、スマートコントラクト、保有集中を個別に確認する必要がある。VGT、Uniswap、Aave、Curveのように関わる主体や仕組みが異なる案件を、一つの規制ラベルでまとめないことが実務上の要点となる。





