Two Primeは、WBTCを機関投資家へ融資して利息収入を目指す「Axiom WBTC Yield Vault」を、オンチェーン信用基盤Pareto上で開始した。 目標年利は1.5〜2%だが、収益は市場環境や借り手の返済状況に左右され、元本や利回りは保証されない。 約1,000万ドルの初期損失吸収資本と機関向けカストディを組み合わせ、ビットコイン運用とオンチェーン・プライベートクレジットを接続する試みだ。
Two PrimeがWBTC利回りVaultを開始
デジタル資産金融サービス企業のTwo Primeは2026年9月、Paretoのオンチェーン信用インフラを利用した「Axiom WBTC Yield Vault」を発表した。CoinDeskの報道によると、預け入れ資産はWrapped Bitcoin(WBTC)で、集めた資産を機関投資家や企業へ融資し、その利息を収益源とする。
目標とする年間利回りは1.5〜2%。最低預入額は5 WBTCとされており、個人向けの少額DeFi商品というより、ビットコインを大量保有する企業、ファンド、富裕層向け運用会社などを想定した設計である。Two Prime自身も公式サイトで、機関向けのビットコイン投資戦略とビットコイン担保融資を主要事業として掲げている。
借り手の候補には、上場企業、信用格付けを持つ事業体、複数事業を展開する金融機関が含まれる。一般的な流動性マイニングのように新規トークンの配布を主な原資とするのではなく、実際の融資需要と借り手が支払う金利からリターンを生み出す点が特徴だ。
Axiom WBTC Yield Vaultの仕組み
利用者がVaultへ預けるのは、Bitcoinネットワーク上のBTCではなくWBTCである。WBTCは、BTCをスマートコントラクト対応ネットワークで利用できる形にトークン化した資産だ。WBTC公式資料では、発行済みWBTCがカストディされたBTCによって1対1で裏付けられ、準備資産をオンチェーンで検証できる仕組みと説明されている。
Axiom WBTC Yield Vaultでは、おおむね次の流れで運用が行われる。
- 投資家がWBTCをVaultへ預ける
- Two Primeが審査対象となる機関の融資需要を組成する
- Paretoの信用基盤を通じて資産を借り手へ配分する
- 借り手が支払う利息を原資として預入者への収益を目指す
- 資産の保管にはICE Digital TrustとCopper Technologiesを利用する
Paretoは、機関投資家と借り手を接続するプライベートクレジット市場を提供している。公式ドキュメントによれば、同社のCredit Vaultsは、信用枠の条件設定、資金配分、償還、レポーティングなどをオンチェーン基盤上で管理するための仕組みだ。既存事例には、FalconX向けのプライムブローカレッジ信用枠や、Fasanara Digital向けのVaultなどがある。
ただし「オンチェーン」という表現は、融資先企業の財務状態やカストディ業務まで完全に自動化・無信用化されることを意味しない。スマートコントラクトで資金移動や持分を記録できても、借り手の信用分析、契約執行、資産保管には現実世界の事業者が関与する。
約1,000万ドルの初期損失吸収資本とは
今回の重要な設計要素が、Two Primeによる約1,000万ドルの自己資本拠出である。この資本は「ファーストロス・キャピタル」として、融資で損失が発生した際に、外部投資家より先に一定範囲の損失を吸収する役割を持つ。
例えば、借り手の債務不履行や担保処分によってVaultに損失が生じた場合、設定された条件の範囲内ではTwo Primeの拠出分から先に損失を負担する。この構造は運営者と預入者の利害を近づけ、運営者に慎重な借り手選定を促す効果が期待される。
一方、約1,000万ドルという数字だけで安全性を判断することはできない。確認すべきなのは、Vault全体の預入上限、ファーストロス資本の法的な優先順位、損失認定の方法、複数の債務不履行が重なった場合の扱いである。損失が吸収枠を上回れば、外部の預入者にも影響が及ぶ可能性がある。
したがって「1,000万ドルの裏付け」は元本保証を意味しない。正確には、Two Primeが一定額の劣後資本を提供し、初期損失を引き受ける信用補完策と理解すべきだ。
従来のDeFi利回り商品との違い
WBTCを利用した運用方法には、Aaveなどでの貸し出し、UniswapやCurveへの流動性提供、担保としての借り入れなどがある。WBTC公式サイトも、レンディング、担保利用、DEXへの流動性提供を主なDeFi用途として紹介している。
Axiom WBTC Yield Vaultとの大きな違いは、収益源と参加者である。一般的なDeFiレンディングでは、スマートコントラクト上の貸出市場における利用率が金利を左右する。流動性提供では取引手数料が収益になる一方、組み合わせる資産によっては価格変動に伴う損失も発生し得る。
これに対しAxiomは、審査された機関への信用供与を中心とする。Paretoの既存Credit Vaultsも、借り手、運用担当者、金利方式、償還周期などをVaultごとに設定する構造を採用している。つまり、誰でも匿名で借りられる無許可型市場よりも、オンチェーン化された機関向けプライベートクレジットに近い。
目標利回りが1.5〜2%に設定されている点も、極端に高い利回りを掲げるインセンティブ依存型商品とは性格が異なる。ただし、利回りが低めであることと安全性が高いことは同義ではない。信用リスク、流動性条件、契約上の回収可能性を別々に評価する必要がある。
投資家が確認すべき主なリスク
第一は借り手の信用リスクだ。上場企業や格付け取得企業であっても、返済能力が保証されるわけではない。投資家は借り手の分散状況、担保の有無、担保掛け目、満期、債務不履行時の回収手続きを確認したい。
第二はWBTC固有のリスクである。預入者はBTCだけでなく、WBTCの発行・償還、カストディ、スマートコントラクト、BTCとの価格連動にも依存する。WBTCは準備資産を公開検証できる設計だが、ネイティブBTCと同じ資産ではない。
第三はVaultとParetoの技術リスクだ。コントラクトの不具合、権限管理の問題、オラクル障害、想定外の償還集中が発生する可能性がある。監査の有無だけでなく、コントラクトのアドレス、アップグレード権限、緊急停止機能も確認すべき項目となる。
第四はカストディリスクである。今回の資産保管にはICE Digital TrustとCopper Technologiesが関与するため、鍵管理、資産分別、倒産時の法的取り扱い、保険の適用範囲を理解する必要がある。複数のカストディ事業者を利用することは運用上の分散になり得るが、それだけで損失可能性がなくなるわけではない。
さらに、最低預入額が5 WBTCであるため、解約条件は特に重要だ。申請後すぐに全額を引き出せるのか、償還期間や通知期限があるのか、借り手への融資期間中に流動性が不足した場合はどうなるのかを、契約書やVault画面で確認する必要がある。
BTCFi市場に与える意味
Two Primeの参入は、ビットコインを単に保有する資産から、信用市場で運用可能な資本へ転換する「BTCFi」の広がりを示している。これまで機関向けビットコイン融資は、相対取引や中央集権的な管理システムで行われるケースが多かった。Paretoを使うことで、Vaultの持分、資金配分、返済などの一部をオンチェーンで可視化しやすくなる。
また、Two Primeが自己資本を劣後部分へ投入する構造は、運営会社が管理報酬だけを受け取り、損失を預入者だけに負わせる設計との差別化要素になる。今後は、実際の融資残高、延滞率、損失発生時の処理、利回り実績が公開されるかが評価の焦点となるだろう。
DEX・DeFi利用者にとっても、オンチェーン金融の対象が匿名参加者向けの過剰担保ローンから、企業向け信用供与へ拡大している点は重要だ。一方で、透明な台帳と健全な信用の引き受けは別問題である。オンチェーンで取引を追跡できても、借り手の事業リスクそのものが消えるわけではない。
まとめ
Axiom WBTC Yield Vaultは、Two Primeの機関向け融資ノウハウとParetoのオンチェーン信用基盤を組み合わせ、WBTC保有者に年間1.5〜2%の利回りを目指す新商品である。約1,000万ドルのファーストロス資本、ICE Digital TrustとCopper Technologiesによるカストディは、機関投資家を意識した信用補完策といえる。
ただし、目標利回りは保証されず、ファーストロス資本も元本保証ではない。利用を検討する場合は、借り手、担保条件、損失負担順位、償還期間、カストディ契約、スマートコントラクトの権限を確認することが不可欠だ。今後の実績を判断するには、発表時の利回りだけでなく、融資残高、返済状況、実現利回り、損失時の処理が継続的に開示されるかを追う必要がある。





