Zamaは、預入額や残高を暗号化したままMorphoの運用戦略へ参加できる「Confidential Vault」を拡大した。 今回の発表では合計16種類のVaultが提供され、同時にEthereum上でConfidential Swapも稼働。公開ブロックチェーンの検証可能性を保ちながら、運用ポジションや取引意図の露出を抑えることが狙いだ。
Zamaが機密対応Morpho Vaultを16種類へ拡大
The Blockは2026年9月15日、ZamaがEthereum上のConfidential Vaultを拡充し、暗号化資産を交換するConfidential Swapを開始したと報じた。
新ラインアップは、既存のMorpho戦略へ機密性を付加した12種類と、機密預入専用に設計された4種類で構成される。対象資産はUSDC、USDT、WBTC、AUSD、TGBPの5種類。利用者は、それぞれの機密トークンや暗号化されたVault持分を通じて運用へ参加する。
Vaultのキュレーターには、Steakhouse Financialのほか、Armitage by Wintermute、Bitwise、Flowdesk、RockawayXが加わった。Morphoが融資市場とVault基盤を提供し、各キュレーターが市場選定やリスク管理を担当する構成だ。
Zamaがゼロから独自のレンディング市場を作るのではなく、Morpho上ですでに使われている運用戦略へ「機密な入口」を追加する点が重要である。既存戦略を利用するVaultでは、基礎となる運用方針を変えずに、利用者ごとの預入額や持分を暗号化できる。
最初のSteakhouse Vaultが約4,000万ドルへ成長
今回の拡大に先立ち、Zama、Morpho、Steakhouse Financialは2026年6月、Steakhouse Confidential Prime USDC Vaultを公開した。これはcUSDCを預け、Morpho上のSteakhouse USDC Prime戦略へ接続する商品である。
The Blockによると、同Vaultは公開後に約4,000万ドル規模へ成長した。Zamaの公式発信でも、最初のConfidential Vaultが4,000万ドルを超えたことが示されている。この実績が、対応資産とキュレーターを増やす判断につながったとみられる。
利用者は通常のUSDCをZamaの仕組みでcUSDCへ変換し、その後Vaultへ預ける。運用先ではMorphoの融資市場が使われ、Steakhouse Financialが戦略を管理する。Zamaの説明では、既存のPrime戦略を利用するため、機密対応によって原資産、担保構成、信用リスクが自動的に安全になるわけではない。暗号化されるのは主に利用者の預入額、持分、入出金情報であり、運用戦略そのもののリスクは残る。
Confidential Vaultはどのように機密性を確保するのか
Zama Protocolの中核技術は、暗号化されたデータを復号せずに計算できる完全準同型暗号、FHEである。cUSDCやcUSDTなどのConfidential Tokenでは、残高と送金額が暗号化された状態でEthereum上に記録される。
Confidential Vaultへの預入は、概ね次の流れで処理される。
- 利用者がZama Appなどから機密トークンを預ける
- 個別の預入額を暗号化したまま一定期間集約する
- 集約された合計額だけを基礎となるMorpho戦略へ送る
- 利用者は預入額に対応する暗号化Vault持分を受け取る
Zama公式サイトによると、預入は24時間単位でバッチ処理される。公開されるのはバッチ全体の合計やVault全体の支払い能力であり、各利用者の個別残高は暗号文として保持される。
これは資金の送付先を隠すミキサーとは異なる。資金がどのVault戦略へ投入されたか、誰が暗号化持分を所有しているかという関係は監査可能で、利用者は必要に応じて監査人、取締役会、規制当局などへ自身のポジションを開示できるとZamaは説明している。
Ethereum上でConfidential Swapも稼働
Vault拡大と同時に、ZamaはConfidential SwapをEthereum上で公開した。これは通常の自動マーケットメーカー型DEXではなく、RFQ方式とブラインドオークションを組み合わせた交換プロトコルである。
利用者が注文を出すと、交換数量、売買方向、価格上限などの条件が暗号化される。ホワイトリスト登録されたプロのマーケットメーカーが両方向の価格を提示し、スマートコントラクトが最良条件を選択する。落札したマーケットメーカーだけが決済に必要な方向を知り、他の参加者には注文全体が公開されない設計だ。
公開時点の対応ペアには、cUSDC、cUSDT、cAUSD、cTGBP、cWBTCの組み合わせに加え、ZAMAやPENDLE、SteakhouseのVault持分とcUSDCなどが含まれる。
Vault持分を直接交換できるため、利用者は利回り商品から別の機密資産へ移る際、いったん通常トークンへ戻して取引額を公開する必要がない。たとえばSteakhouseのVault持分からcUSDCへ移動する場合も、機密領域の中で交換を完了できる。
公開注文によるMEVと情報漏えいを抑える
通常のEthereum取引では、未確定の注文が公開メモリプールで観測される場合がある。大口スワップの数量、方向、許容価格が見えると、サンドイッチ攻撃や先回り取引、相場への事前反映を招く可能性がある。
ZamaのConfidential Swapでは、注文が存在すること自体は観測されても、数量や方向は暗号化される。マーケットメーカー同士も他社の提示価格を確認できず、利用者の価格上限も見えない。Zamaは、この仕組みによって公開注文を手掛かりにしたフロントランニングを抑えられるとしている。
ただし、これは「あらゆるMEVが消滅する」という意味ではない。約定後の市場価格変動、マーケットメーカーの流動性、提示価格の競争状況、Ethereumのガス代などは引き続き取引結果へ影響する。AMMの流動性プールへ即時交換する方式とも異なるため、注文が必ず成立するとは限らない。成立しなかった場合、預けた資産は注文終了後に返却される仕様である。
利用前に確認したい機密性とVaultのリスク
Confidential Vaultを利用しても、Ethereum上の活動すべてが匿名になるわけではない。Zama公式サイトは、アドレスがバッチへ参加した事実、バッチ全体の合計額、Vault全体の状態は公開されると説明している。
特に注意したいのが、通常トークンから機密トークンへ変換するシールド操作だ。シールドした直後に同じアドレスから同額を預けると、公開された変換額とタイミングから預入額を推測される可能性がある。Zamaも、機密性を高める方法として、事前にシールドすることや、継続的に機密トークン残高を保有してから預けることを案内している。
また、暗号化は投資損失を防ぐ機能ではない。Morpho Vaultには、融資先の担保価格下落、オラクル、スマートコントラクト、流動性、キュレーターの配分判断といったリスクがある。Steakhouse Financial、Bitwise、Flowdeskなどの名称だけで安全性を判断せず、Vaultごとの資産、接続市場、キュレーター、引き出し条件を確認すべきだ。
機密な引き出しは次回バッチで処理される一方、基礎Vaultから直接即時償還すると金額が公開される場合がある。プライバシーを優先するのか、即時流動性を優先するのかによって出口が異なる点も理解しておきたい。
まとめ
Zamaの今回の発表は、Confidential DeFiを単一の実証Vaultから、複数資産・複数キュレーターを備えた運用基盤へ広げる動きである。Morphoの既存戦略へ機密な預入経路を追加し、Confidential Swapによって機密トークンやVault持分の交換まで同じ環境内で完結できるようにした。
企業財務、ファンド、トレーディング会社にとって、保有額やリバランスのタイミングを公開せずにEthereumを利用できる点は実用的だ。一方で、シールド時の情報漏えい、バッチ処理、RFQの流動性、Morpho Vault固有の運用リスクは残る。
Zamaは「すべてを隠す匿名化」ではなく、資金の行き先と監査可能性を保ちながら、経済的に重要な金額や取引意図を暗号化する方向を選んだ。Confidential VaultとConfidential Swapが十分な流動性を獲得できるかは、公開ブロックチェーン上の機関向けDeFiが次の段階へ進めるかを測る試金石となる。





