CLARITY Actは、米国における暗号資産の監督権限や市場参加者のルールを整理する法案です。 Bernsteinは、上院共和党による譲歩を受け、法案が市場予想以上に前進する可能性があると分析しました。 ただし、9月15日に予定されるのは最終可決ではなく、審議を進めるための手続き採決です。
Bernsteinが指摘した「織り込まれていない」可能性
調査・証券会社BernsteinのGautam Chhugani氏らは、2026年9月14日付の顧客向けメモで、CLARITY Actを巡る交渉が前週の市場予想より進展している可能性を指摘しました。
The Blockによると、上院共和党は民主党側が求めた倫理規定や地域銀行への配慮を最終案に取り込みました。これを受け、Bernsteinは、採決に向けた前向きなサプライズが暗号資産市場へ十分に織り込まれていないとの見方を示しています。
一方、これは法案可決を保証する予測ではありません。Bernsteinの分析は、政治交渉と市場ポジションを基にした見解です。また、The Blockの記事では、Chhugani氏が複数の暗号資産でロングポジションを保有していることも開示されています。BitcoinやEthereum、Coinbase株などへの影響を読む際は、この利益相反情報も含めて評価する必要があります。
UniswapやAaveの利用者にとって重要なのは、短期的な価格予想より、法案が分散型プロトコル、フロントエンド運営者、トークン発行者の法的位置付けをどこまで明確にするかです。
9月15日の採決は最終可決ではない
米上院の公式日程によると、H.R.3633に関するclotureの手続きは、2026年9月15日午後2時15分に進行する予定です。今回の対象は法案そのものの最終可決ではなく、法案を審議対象にするための「motion to proceed」に対する討論終結動議です。
clotureには60票が必要です。The Blockの報道時点で共和党は上院53議席を占めているため、共和党議員が全員賛成しても、民主党または無所属議員からの支持が必要になります。
仮に手続き採決を通過しても、上院での審議、修正案、最終採決が残ります。さらに、上院案が下院通過済みの法案から変更されれば、下院による再承認も必要です。「9月15日にCLARITY Actが成立する」と理解するのは正確ではありません。
CoinbaseやKrakenのような中央集権型取引所だけでなく、UniswapやdYdXなどの分散型取引基盤にも影響し得る大型法案だからこそ、投資家は採決の種類と立法段階を区別して確認すべきです。
最終案で加えられた三つの重要な修正
The Blockによると、上院共和党が提示した最終案には、民主党側から求められた126項目の実質的な変更が反映されました。焦点となったのは、政治家の利益相反、地域銀行からの預金流出、非カストディアル開発者の扱いです。
第一は倫理規定です。大統領を含む公職者の暗号資産事業との利益相反を抑える仕組みについて、州司法長官にも執行上の役割を与える案が盛り込まれました。暗号資産の売却やブラインド・トラストに関する条件も交渉材料になっています。
第二はステーブルコイン報酬です。決済用ステーブルコインが地域銀行から大規模な預金流出を引き起こした場合、財務長官がサーキットブレーカーを発動し、報酬を一時的に制限できる内容が報じられています。CircleのUSDCを扱うCoinbaseや、USDC・USDT市場を持つAaveなどでは、報酬の提供主体と仕組みによって影響が異なるため、最終条文と今後の規則を確認する必要があります。
第三は非カストディアル開発者の保護です。自己管理型ウォレットやUniswap型インターフェースの開発者を、顧客資産を管理する送金業者と同一に扱うべきかが争点になっています。最終案では一定の保護が残る一方、刑事法上の問題を十分に解決していないとの批判も出ています。
CLARITY Actが目指す規制区分
GovInfoに掲載されたH.R.3633と米議会調査局の解説によると、CLARITY Actはデジタル資産市場におけるSECとCFTCの権限分担を整理することを主要目的としています。
基本的な方向性は、法案上の「デジタル・コモディティー」に該当する資産についてCFTCの管轄を広げ、投資契約に関係するデジタル資産についてSECの役割を明確化することです。現在、証券ではない暗号資産の現物取引には、証券市場と同等の包括的な連邦監督制度が存在しないという規制上の空白が問題視されています。
法案は、当初は投資契約の一部として販売されたトークンでも、ネットワークの成熟など所定の条件を満たした後の流通市場では異なる規制区分になり得る考え方を採用しています。ただし、個別トークンが自動的にコモディティーと認められるわけではありません。
例えば、Ethereum上のトークンをUniswapで交換できるという技術的事実だけでは、その資産の法的分類は決まりません。発行方法、運営主体、情報開示、ネットワークの状態などを法案と将来の規則に照らして判断することになります。
DEX・DeFi事業者への実務的な影響
CLARITY Actの成立は、DEXやDeFiを一律に規制対象外とするものではありません。Uniswap Labsのようなフロントエンド開発企業、Uniswapプロトコルのスマートコントラクト、流動性提供者、トークン発行者は、それぞれ異なる機能を担っています。規制上も、資産管理、注文執行、顧客との関係、プロトコルに対する支配力を分けて検討する必要があります。
Aaveでは、貸し手と借り手をスマートコントラクトで接続しますが、ステーブルコイン報酬を巡る規定が、プロトコル金利、中央集権型プラットフォームの報酬、発行体による利払いのどこまで及ぶかは、最終条文や実施規則なしに断定できません。
dYdXのようなデリバティブ取引を提供するプロジェクトでは、CFTCの管轄整理が特に重要です。米国居住者への提供方法、運営主体の関与、インターフェースのアクセス管理などが実務上の論点になります。
事業者が今から準備できることは、フロントエンドとプロトコルの責任分界、顧客資産を管理する権限の有無、トークンの発行・販売履歴、報酬の原資と支払主体を文書化することです。法案通過だけを見て対応を始めるのではなく、SEC・CFTC・財務省による規則制定も継続して追う必要があります。
FRB判断と重なる「材料集中の週」
Bernsteinは、CLARITY Actの手続き採決に続いて、翌9月16日に米連邦準備制度理事会の金融政策判断が予定されている点を挙げ、市場が重要材料の集中する週を迎えていると分析しました。
同社のシナリオでは、法案が前進せず、同時にFRBが市場予想より金融引き締めに積極的な姿勢を示した場合、暗号資産と関連株の双方に強い下落圧力が生じる可能性があります。反対に、法案の審議入りと金融環境に対する安心感が重なれば、弱気に傾いたポジションの巻き戻しが起きる可能性もあります。
ただし、これはBernsteinによる条件付きの市場分析であり、価格変動を保証するものではありません。Bitcoin、Ethereum、Coinbase、Circleなどは同じニュースに反応しても、金利感応度、事業構造、規制上の立場が異なります。
DEX利用者は、採決直後の価格だけでなく、USDCなどのステーブルコイン流動性、Aaveの借入金利、Uniswapの主要プールにおける取引条件の変化も確認するとよいでしょう。急変時にはスリッページや清算リスクが拡大するため、レバレッジと許容スリッページの設定を平常時のままにしないことが重要です。
まとめ
Bernsteinは、倫理規定や地域銀行への対策を巡る共和党側の譲歩により、CLARITY Actが市場予想以上に前進する可能性があると評価しました。ただし、9月15日の上院採決は最終可決ではなく、法案審議を進めるための手続きです。
法案の本質は、短期的な暗号資産価格の材料にとどまりません。SECとCFTCの管轄、トークンの法的分類、ステーブルコイン報酬、非カストディアル開発者の責任範囲を左右し、Uniswap、Aave、dYdX、Coinbase、Circleなど幅広い事業者やプロトコルに影響し得ます。
読者は採決結果だけで判断せず、上院での修正、下院での再審議、各規制当局の実施規則まで追跡する必要があります。市場が大きく動く局面では、方向を予想するよりも、ポジション量、担保余力、スリッページ、スマートコントラクト固有のリスクを点検することが実用的な対応です。





