USDC発行元のCircleは、準備資産から得る収益をパートナーへ十分に還元していないとの批判に対し、自社の収益配分を公開した。 結論は、ステーブルコイン競争の軸が単純な還元率から、償還能力、規制対応、流動性、対応チェーンを含む総合的なインフラへ移っているということだ。Open USD(OUSD)の登場により、発行体と販売・決済パートナーが収益をどう分けるかが改めて問われている。
Circleが公開したUSDCの収益構造
CoinDeskが報じた今回の論点は、USDCの準備資産収益をCircleと流通パートナーがどう分けているかだ。Circleの最高商務責任者Kash Razzaghi氏は公式ブログで、2026年上半期の売上高が約14億ドル、USDCの流通パートナーへの支払いと取引費用が約8億1,900万ドルだったと説明した。売上1ドル当たり約59セントが、ウォレット、取引所、銀行、フィンテック、決済ネットワークなどに回った計算である。
残る部分のうち、約4億7,300万ドルは、ライセンス、銀行関係、決済用流動性、コンプライアンス、新製品、ブロックチェーン統合などに使ったとしている。Circleが示した最終的な純利益は、売上1ドル当たり7セントだった。ここで注意したいのは、8億1,900万ドルがすべてCoinbaseへの支払いではない点だ。Circleの表現は、流通パートナーへの支払いと取引費用を合算した数字であり、個社別の配分は示していない。
Circleの反論は「収益を配るか、配らないか」という二択ではない。同社はすでにUSDC残高の拡大に貢献するパートナーへ経済的利益を分けており、残りを償還や規制対応の基盤へ再投資している、と説明している。したがって比較すべきなのは表面上の還元率だけでなく、その原資から何を維持しているかである。
CoinbaseがUSDCとOUSDの両方に関わる理由
CircleはCoinbaseを最大かつ長年のUSDCパートナーと位置付けている。一方、CoinbaseはOpen Standardが運営するOpen USDにも参加している。Open Standardの公式発表には、Stripe、Visa、Mastercard、BlackRock、Coinbase、Aave、Uniswapなど多様な企業・プロジェクトが参加者として掲載された。これは、企業が一つのステーブルコインだけに依存せず、複数の決済・流動性基盤を比較する動きの表れと読める。
OUSDの特徴は、企業が無料で発行・償還でき、準備資産から得る収益を少額の管理手数料を除いてパートナーへ配る設計だ。さらに、Open Standardの取締役会にはパートナーが参加し、単一企業ではなく参加企業の共同利益を重視する方針を掲げる。USDCが長年構築してきた流通網と運用基盤を強みにするのに対し、OUSDは経済的な取り分と共同ガバナンスを前面に出している。
ただし、CoinbaseがOUSDを支援していることは、直ちにUSDCとの関係解消を意味しない。取引所や決済事業者にとっては、対応地域、顧客需要、償還経路、システム統合の条件が異なるため、複数資産を扱う合理性がある。今回の競争は、勝者が一つに決まるというより、パートナーが用途ごとに発行体を選びやすくなる変化として捉えるべきだ。
OUSDとUSDGが迫る収益分配モデルの見直し
Open Standardは2026年9月30日、OUSDの稼働を発表した。公式情報によると、OUSDはBridgeが発行し、準備資産はBlackRock、Lead Bankなどの金融機関で保有する。企業はBVNK、Stripe、Visaの基盤から利用を始められ、Coinbase経由の統合も案内された。Base、Ethereum、Solana、Tempoでネイティブ対応し、取引場所としてCoinbase、Kraken、Uniswapが挙げられている。
OUSDでは、パートナーが各社のプラットフォーム上で生み出した供給量と活動に応じて報酬を得る。これは、発行体が準備資産収益の大部分を保持し、販売会社へ個別契約で分配する従来型とは異なる打ち出し方だ。CoinDeskは、Paxos主導のGlobal Dollar NetworkとUSDGも、参加者への収益分配を特徴とする競合例として挙げている。
もっとも、配分を増やせば運用コストが消えるわけではない。OUSD側も管理手数料を差し引くとしており、Circle側は償還、コンプライアンス、銀行接続、流動性の費用を強調する。USDC、OUSD、USDGを比べる際は「何%を配るか」だけでなく、誰が発行者で、準備資産をどこに置き、監査・証明をどう公開し、混乱時の償還を誰が担うかまで確認する必要がある。
償還速度と無料という言葉の確認点
Circleは、すべてのCircle顧客が標準的な銀行経路でUSDCを無料償還でき、通常は最大2営業日で決済すると説明している。また、Circle Payments Networkの決済フローや、Circle Platform上の条件を満たす顧客には、年中無休の即時に近い無料償還を提供するとした。Circleの開発者向け文書でも、条件を満たす企業はCircle Mintを通じ、追加費用なしで米ドルとUSDCを交換できる。
一方、Open StandardはOUSDについて、統合経路から米ドルと1対1で無料の発行・焼却を提供すると説明する。ここでの「無料」は、ブロックチェーン上のガス代、取引所の売買手数料、銀行送金費用、外部サービスの利用料まで一律にゼロという意味ではない。公式文書が示す無料範囲と、利用者が実際に通る経路を分けて確認すべきだ。
企業やDAOの財務担当者なら、小口の平常時だけでなく、大口償還、銀行休業日、対応通貨、入出金上限、本人確認、障害時の連絡先を事前に試す必要がある。CircleとOpen Standardの主張は、いずれも自社経路の説明である。実際の所要時間や総コストは、仲介するCoinbase、Stripe、BVNKなどの条件でも変わり得る。
DeFi利用者と開発者への実務的な影響
DEXやレンディング市場では、発行体の収益分配がそのまま一般保有者の利回りになるとは限らない。OUSDの公式説明は、準備資産収益をパートナーへ配るモデルであり、トークン保有者全員への自動分配とは書かれていない。USDCも同様に、CircleとCoinbaseなどの契約上の分配と、Aaveでの貸出金利やUniswapでの流動性提供収益は別の仕組みである。
UniswapでUSDCとOUSDの流動性を提供する場合、見るべきなのは発行体の利益率ではなく、プールの出来高、価格乖離、集中流動性の範囲、スマートコントラクトのリスクだ。Aaveのようなレンディング市場でも、金利は市場の資金需給やパラメータに左右される。Open Standardが参加企業としてAaveとUniswapを掲げても、すべての市場やチェーンで同じ条件が直ちに利用できるとは限らない。実際のコントラクト、対応市場、担保設定を各アプリで確認する必要がある。
開発者は、ティッカー名だけで資産を判定してはいけない。Open Standardはチェーン別のOUSD公式コントラクトを公開しているため、偽トークンを避けるには公式アドレスとの照合が欠かせない。USDCについてもCircleは対応チェーンごとの公式コントラクト一覧を提供している。ブリッジ版やラップ資産をネイティブ発行版と同一視せず、発行・償還経路まで追跡することが重要だ。
まとめ
Circleの反論は、USDCの準備資産収益がCircleだけに残るという単純な見方を否定するものだ。同社は2026年上半期の売上とパートナー関連費用を示し、純利益は売上1ドル当たり7セントだったと説明した。残りは償還、規制対応、流動性、製品開発に使うという主張である。
対するOpen StandardのOUSDは、無料の発行・償還、準備資産収益のパートナー還元、共同ガバナンスを掲げる。Coinbase、Stripe、BlackRock、Aave、Uniswapなどが関わることで、USDCやPaxosのUSDGを含む競争は、流通量だけでなくパートナーへの配分設計へ広がった。
読者が確認すべきなのは、高い還元をうたう見出しだけではない。発行者、準備資産、証明資料、償還条件、対応チェーン、公式コントラクト、DeFi市場での実際の流動性を分けて調べる必要がある。ステーブルコインの経済性は、還元率と運用基盤の両方を見て初めて比較できる。





