米国のDigital Asset Market Clarity Act(CLARITY法案)が上院で前進できなかった結果、暗号資産規制の主導権は議会からSECとCFTCへ移りつつあります。 短期的にはトークン化証券やDeFiの実証が進みやすくなる一方、法律による恒久的なルールがないため、現物市場の監督や新規参入の公平性には不確実性が残ります。
CLARITY法案の停滞で何が変わったのか
CoinDeskは、CLARITY法案が上院で前進できなかったことにより、米国の暗号資産規制が「立法中心」から「行政機関中心」の段階へ移ったと報じています。中心となるのは、証券を監督する米証券取引委員会(SEC)と、商品デリバティブなどを監督する米商品先物取引委員会(CFTC)です。
法案が目指していた重要な役割の一つは、デジタル資産の性質に応じてSECとCFTCの管轄を整理し、連邦レベルで市場構造を明確にすることでした。しかし、法案の停滞によって、議会が包括的な制度を一度に整える道筋は後退しました。
その代わりに進んでいるのが、SECによる個別の適用除外、カストディ規則の改正案、CFTCによる暗号資産市場向け規則の検討です。これらはUniswapやAerodromeのようなオンチェーン市場にとって事業機会になり得ますが、すべてのDeFiプロトコルが直ちに規制上承認されるという意味ではありません。対象資産、参加者、運営主体、アクセス制御などを案件ごとに確認する必要があります。
SECの「Innovation Exemption」が開くオンチェーン市場
SECは2026年9月17日、トークン化されたNMS株式の取引を対象とする「Innovation Exemption」を公表しました。これは、条件を満たすTokenized Securities Venue(TSV)について、証券取引所としての登録義務などから一時的かつ条件付きで適用を除外する措置です。
TSVは、許可された参加者が自動マーケットメーカー(AMM)型の流動性プールを通じてトークン化株式を取引する仕組みです。Uniswapに代表されるAMMの考え方を想起させますが、一般的なパーミッションレスDEXと同一ではありません。SECの制度では参加基準が設けられ、取引対象となる株式の銘柄数や取引量にも制限があります。
さらに、トークン化株式には従来の同種株式と同じ権利が必要です。利用するスマートコントラクトは監査可能かつ公開され、パブリックなパーミッションレス分散型台帳上に配置されなければなりません。原株式が主要取引所で売買停止となった場合、TSV上のトークン化株式も同時に取引を止めることが条件です。
適用除外は官報掲載後5年で失効する予定です。したがって、これは恒久制度ではなく、SECがオンチェーン証券市場を検証しながら将来の規則を検討するための橋渡しと捉えるべきです。
CFTCの規則案でも現物市場の空白は残る
CFTCは2026年10月5日、暗号資産を用いた個人向け商品取引と暗号資産市場の規制について、規則制定事前通知を公表しました。焦点となるのは、証拠金、レバレッジまたは融資を伴う個人向け暗号資産取引と、暗号資産市場に適した登録制度です。
重要なのは、この発表が最終規則の施行ではなく、意見募集を含む規則制定プロセスの開始である点です。取引所やマーケットメーカーが直ちに新制度へ登録できるわけではなく、具体的な要件は今後の手続きを通じて固まります。
また、レバレッジを伴わない通常の暗号資産現物取引については、包括的な連邦監督の空白が引き続き残ります。CFTCには詐欺や相場操縦へ対処する権限がありますが、CoinbaseやKrakenのような現物取引所を、証券取引所と同様の単一制度で日常的に監督する仕組みとは異なります。
この空白はDEXにも関係します。例えばUniswapのフロントエンド運営者、プロトコル開発者、流動性提供者、トークン保有者のうち、誰が規制上の市場運営者または仲介者に該当するのかは一律に決まりません。スマートコントラクトを公開しただけの開発者と、顧客資産や取引アクセスを管理する事業者を区別できるかが重要になります。
カストディ明確化はDeFiへの機関投資を後押しするか
SECは2026年10月1日、登録投資顧問業者と規制対象ファンドによる暗号資産の保管について、新規則と改正案を提示しました。提案では、一定の条件下での自己管理を認めるほか、州認可の信託会社を顧客資産およびファンド資産のカストディアンとして利用できるようにします。
意見募集期間は、提案文書が官報に掲載されてから60日間です。現段階では提案であり、最終規則ではありません。それでも、投資顧問業者やファンドが暗号資産を保有する際の適法な経路が具体化されれば、オンチェーン市場へ参加する機関投資家の実務負担が下がる可能性があります。
Aaveのようなレンディングプロトコルや、Curveのようなステーブル資産取引市場にとっては、機関投資家がどのウォレットを使い、秘密鍵を誰が管理し、プロトコルとの取引権限をどう制御するかが重要です。カストディ規則が明確になっても、スマートコントラクト障害、オラクル異常、担保価格の急変、清算、ガバナンス権限といったDeFi固有のリスクがなくなるわけではありません。
規制の加速が既存大手を守る可能性
CoinDeskの取材では、行政機関による対応は議会立法より早く商用機会を生み、トークン化、M&A、オンチェーン取引を促進するとの見方が示されました。その一方で、CLARITY法案の不成立はCoinbaseやKrakenなど既存大手の規制上の優位性を維持する可能性があるとも指摘されています。
新規参入企業は、州ごとのライセンス、連邦当局との協議、カストディ、本人確認、マネーロンダリング対策、記録保存などを個別に整備しなければなりません。既存大手はすでに法務、コンプライアンス、カストディ、銀行接続へ投資しているため、制度が断片的であるほど対応力の差が参入障壁になり得ます。
AerodromeとVelodromeを開発するDromos Labsの法務責任者は、パブリックブロックチェーン上の流動性とトークン化証券が拡大すれば、政策を巻き戻しにくくなるとの見方をCoinDeskに示しました。ただし、行政機関の解釈、職員向け文書、適用除外は法律と同じ耐久性を持ちません。政権交代、委員構成の変更、裁判所の判断によって方針が修正される可能性があります。
DEX・DeFi利用者と事業者が確認すべき点
利用者は「規制が前進した」という見出しだけで、すべてのDEXやトークンが米国で適法になったと判断すべきではありません。Innovation Exemptionの対象は、条件を満たすTSVにおけるトークン化NMS株式です。通常の暗号資産、ガバナンストークン、流動性提供トークンまで自動的に対象となる制度ではありません。
事業者は、プロトコル本体と運営サービスを分けて検討する必要があります。スマートコントラクトが非管理型でも、フロントエンドで利用者を選別する、取引を仲介する、資産を保管する、価格を提示する、特定の流動性を継続的に供給するといった行為は、別の規制論点を生みます。
投資家側では、規制適合性と資産の安全性を混同しないことが大切です。規制された事業者を利用しても、ブリッジ障害、コントラクトの脆弱性、ステーブルコインの価格乖離、流動性不足、清算などのリスクは残ります。特にレバレッジ取引では、制度整備の進展とは別に、担保条件や強制清算の仕組みを確認する必要があります。
まとめ
CLARITY法案の停滞は、米国の暗号資産規制を止めたのではなく、SECとCFTCによる段階的な制度整備を前面に押し出しました。SECのInnovation Exemptionはトークン化株式とAMM型市場を限定的に接続し、カストディ提案は投資顧問業者やファンドの参加経路を整えようとしています。CFTCも個人向けレバレッジ取引と暗号資産市場の規則づくりを開始しました。
ただし、行政機関の措置だけでは、暗号資産現物市場の包括的な監督、SECとCFTCの境界、開発者と仲介者の区別を恒久的に解決できません。DeFiには実証の余地が広がる一方、既存大手の規制対応力が競争上の堀になる可能性もあります。短期的な技術革新と長期的な法的確実性を分けて評価することが、2026年以降の米国市場を理解する鍵となります。





