米司法省は、Robinhoodの非公開上場情報を利用し、Hyperliquidで暗号資産の無期限先物を取引したとして、同社の元技術者2人を訴追した。
本件は、中央集権型サービスの内部情報が、分散型取引所(DEX)上のデリバティブ取引に利用されたとされる事件だ。オンチェーン取引であっても、情報の取得方法や利用目的によって刑事責任を問われ得ることを示している。
Robinhood元技術者2人を米司法省が訴追
米司法省(DOJ)傘下のニューヨーク南部地区連邦検事局は2026年9月15日、Robinhood Marketsで技術職に就いていたHefu Chai被告とHuaisong Xiang被告を、商品詐欺および通信詐欺の容疑で訴追したと発表した。
検察側によると、両被告はRobinhood Cryptoが新たに対応する暗号資産と、その上場時期に関する重要な非公開情報へ業務上アクセスできる立場にあった。両被告はその情報を秘密にする義務を負っていたにもかかわらず、Robinhoodの公式発表前にHyperliquidで対象トークンの無期限先物を購入したとされる。
事件を最初に報じたThe Blockは、この行為を暗号資産上場の「front-running」と表現している。ただし、司法省の正式発表で中心となっているのは、注文執行の順番を操作する典型的なフロントランニングではなく、雇用主から得た機密情報の不正流用だ。
現段階で公表されているのは刑事告発の内容であり、有罪判決ではない。司法省も、告発内容はあくまで容疑であり、両被告は有罪が確定するまで無罪と推定されると明記している。
Hyperliquidで行われたとされる取引の仕組み
Hyperliquidは、暗号資産などを原資産とするデリバティブを取引できるオンチェーン取引基盤だ。本件で利用されたとされる無期限先物は、通常の先物と異なり満期日を持たず、原資産を保有せずに価格の上昇または下落へポジションを取れる。
検察側の説明では、両被告はRobinhoodが特定のトークンを追加すると公表する前に、そのトークンに連動する無期限先物のロングポジションを構築した。一般に大手取引サービスへの新規上場は市場参加者の注目を集めやすいため、発表後の価格上昇を見込んだ取引だったとみられている。
司法省は、両被告が2025年から2026年にかけて同様の取引を繰り返し、それぞれ5万ドルを超える不正な利益を得たと主張している。
Chai被告に対する告発状には、Lido DAOのLDOやLitentryのLITなどに連動する無期限先物の取引が記載された。Xiang被告に対する告発状では、MOODENG、MEW、Render NetworkのRENDERなどが例示されている。いずれも、Robinhoodの上場予定を伝える社内情報を受け取った後、関連するHyperliquidのウォレットが公式発表前にポジションを保有または決済したというのが検察側の主張だ。
DEXを使っても法的責任を回避できない理由
本件で重要なのは、取引場所がRobinhoodではなくHyperliquidだった点だ。被告らは雇用主のサービス上で直接取引したのではなく、外部の分散型デリバティブ取引基盤を利用したとされる。
しかし、司法省は取引基盤が中央集権型か分散型かではなく、機密情報を不正流用し、その情報を商品デリバティブの取引に利用したかを問題としている。発表では、無期限先物、トークン化証券、その他の類似金融商品を利用しても、証券・商品関連法の適用を免れられないとの立場が示された。
両被告には、商品取引所法違反と通信詐欺がそれぞれ1件ずつ科されている。司法省によると、商品取引所法違反の法定最高刑は禁錮10年、通信詐欺は禁錮20年である。ただし、これらは議会が定めた上限であり、実際の量刑は有罪となった場合に裁判官が決定する。
DEXは取引の自己管理性を高めるが、利用者を雇用契約、守秘義務、詐欺規制から切り離すものではない。ウォレットを介した取引でも、社内メッセージ、アクセス記録、取引時刻、資金移動などが組み合わされれば、捜査上の証拠となり得る。
オンチェーン取引の透明性が捜査にもたらす影響
Hyperliquidのようなオンチェーン市場では、ウォレット単位の注文やポジション、決済履歴を外部から検証できる場合がある。この透明性は、DEX利用者に市場状況を示すだけでなく、不審な取引パターンを分析する材料にもなる。
今回の告発状でも、Chai被告に関連するとされる「Wallet-0x548」、Xiang被告に関連するとされる「Wallet-0x8081」の取引が具体的に記載された。検察側は、社内Slackで上場予定が共有された時刻、Hyperliquid上でポジションが開かれた時期、Robinhoodの上場および公式発表の順序を照合している。
もっとも、ブロックチェーン上で特定の取引を発見しただけでは、そのウォレットを誰が管理していたか、情報をどのように取得したかまでは確定できない。実際の刑事事件では、オンチェーンデータに加えて、端末記録、社内システムへのアクセス、通信履歴、本人との資金的なつながりなどを立証する必要がある。
したがって、「ブロックチェーン上で見える取引」と「犯罪として立証された行為」は区別しなければならない。ウォレット分析は重要な手掛かりになる一方、それだけで利用者の故意や身元を断定すべきではない。
暗号資産事業者が取るべき内部統制
Robinhoodのように上場予定を扱う事業者にとって、新規銘柄に関する情報は価格へ影響し得る重要情報だ。取引所だけでなく、ウォレット、カストディ、マーケットメイク、データ提供、技術統合に関わる担当者も、業務上その情報へ接触する可能性がある。
実務上は、上場情報へアクセスできる社員を必要最小限に限定し、閲覧履歴と変更履歴を保存することが基本となる。社内口座だけを監視しても、Hyperliquidなど外部DEXでの取引は捉えられないため、従業員の自己申告制度、対象期間中の取引制限、関連ウォレットの申告といった統制も検討対象になる。
また、社内Slackやプロジェクト管理ツールで上場日を広く共有すると、情報へアクセスする人数が増える。Robinhoodの事例は、エンジニアも上場情報の管理対象であり、コンプライアンス部門や経営陣だけを監視すれば十分ではないことを示している。
プロジェクト側にも対策が必要だ。トークン発行者が特定取引所への上場予定を知っている場合、チーム、投資家、外部委託先へ情報が拡散しないよう、アクセス権限と告知手順を明文化する必要がある。
DEX利用者がニュースを見る際の注意点
Robinhoodへの上場発表前後に価格が動いたとしても、そのすべてが内部者取引を意味するわけではない。市場では、公開APIの変更、対応ウォレットの更新、流動性の移動、SNS上の観測などから、参加者が上場を推測することもある。
一方で、上場直前に特定ウォレットが繰り返し同方向のポジションを取り、発表前後に決済している場合は、市場監視上の重要なシグナルとなる。Hyperliquidの取引履歴を調べる際は、単発の利益だけでなく、複数銘柄にまたがる反復性、ポジションを開いた時刻、決済時刻、資金の出所を確認する必要がある。
個人投資家は、上場の噂だけを根拠に高いレバレッジをかけるべきではない。無期限先物には価格変動だけでなく、清算、資金調達率、流動性、スマートコントラクト、フロントエンドへのアクセスといった複数のリスクがある。内部情報を持つ疑いのあるウォレットを追跡して取引を模倣する行為も、当該情報の正確性やポジションの意図を確認できない以上、再現性のある戦略にはならない。
まとめ
米司法省は、Robinhoodの元技術者2人が非公開の暗号資産上場情報を流用し、Hyperliquidの無期限先物を取引したとして訴追した。検察側は、両被告が2025年から2026年に取引を繰り返し、それぞれ5万ドルを超える利益を得たと主張している。
本件は、DEXが法規制の外側に存在するわけではないことを改めて示した。オンチェーン取引は透明性が高く、社内通信やアクセス記録と照合されれば、不正取引を調査する有力な材料にもなる。
ただし、現時点では告発段階であり、両被告の有罪は確定していない。事件の評価では、司法省の正式発表、各告発状、今後の裁判手続きを分けて確認することが重要だ。





