米国の暗号資産市場構造を定めるCLARITY法案の改訂版が公表され、DeFiと信用組合に関する条項が修正された。
主な変更は、実質的に中央管理されるDeFiへの規制、対象取引の現物市場への限定、信用組合による暗号資産業務の権限明確化である。ただし法案は成立しておらず、超党派合意への道筋も依然として不透明だ。
CLARITY法案とは何か
CLARITY法案は、デジタル資産市場に対する米証券取引委員会(SEC)と商品先物取引委員会(CFTC)の役割を整理し、取引所、ブローカー、ディーラー、カストディアンなどの登録・監督制度を構築する法案だ。正式名称はDigital Asset Market Clarity Actで、法案番号はH.R.3633である。
米上院で検討されている統合案は、銀行・住宅・都市問題委員会と農業委員会の作業をまとめたものだ。公表された法案文には、デジタル商品仲介業者の登録、顧客資産保護、DeFi、ソフトウェア開発者保護、ステーブルコイン、金融機関の暗号資産業務などが盛り込まれている。
CoinDeskが2026年9月10日に報じた新たな改訂は、制度の基本構造を全面的に変更するものではない。焦点は、DeFiのどこまでを規制対象とするか、信用組合を銀行と同様に扱えるかといった、実務上重要な境界線の調整にある。
UniswapやAaveのようにスマートコントラクトを利用するサービスにとって重要なのは、単に「DeFi」という名称を使っているかではない。運営主体が機能や取引を実質的に変更・停止できるのか、利用者の資産を管理するのかといった実態が判断材料になる。
中央管理型DeFiにはCFTC登録を求める方向
改訂案の中心の一つが、「non-decentralized finance trading protocol」、すなわち非分散型のDeFi取引プロトコルに対する扱いだ。
法案文では、あらかじめ定められた非裁量的なルールで取引を実行し、利用者以外の者に資産の保管・管理を依存しない仕組みをDeFi取引プロトコルとして定義している。一方、特定の人物や共通支配下の集団が機能、運用、合意ルールを大きく変更できる場合や、利用を制限・検閲できる場合は「非分散型」と評価され得る。
新たな整理では、こうした実質的に中央管理されたプロトコルにCFTCの登録制度を適用する方向が示された。名称やフロントエンドの表示ではなく、管理権限の所在を見る考え方である。
例えば、Uniswapの公開スマートコントラクトを利用する第三者インターフェースと、単一企業が取引可否や資産移動を自由に制御できるサービスは、同じ「DEX」と呼ばれていても規制上の評価が異なる可能性がある。Aaveのようにガバナンス、開発組織、フロントエンドなど複数の要素を持つプロジェクトも、それぞれの権限と役割を分けて整理する必要がある。
ただし、これは「すべてのDeFiが直ちにCFTCへ登録する」という意味ではない。最終的な義務は法案の成立、規制当局のルール策定、各サービスの支配構造によって決まる。
DeFi条項を現物・キャッシュ取引に限定
もう一つの重要な修正は、DeFi関連規定の対象をデジタル商品の現物・キャッシュ市場に絞る方向が明確になったことだ。
この区別は、通常の暗号資産交換と、先物、オプション、スワップ、イベント結果に連動する契約などを同一の枠組みで扱わないために重要である。Uniswap上でトークン同士を交換する取引と、KalshiやPolymarketで見られるイベント連動型市場では、商品の性質や既存法上の論点が異なる。
CoinDeskの報道では、この限定はブロックチェーンを利用した予測市場をめぐる懸念への対応とみられている。法案文上も、デジタル商品には証券デリバティブ、商品デリバティブ、適格な決済用ステーブルコインなどをそのまま含めない整理が置かれている。
DEX運営者にとっては、提供機能を「現物交換」「レバレッジ」「デリバティブ」「予測市場」に分類する作業が必要になる。複数の商品を一つの画面で提供する場合、サービス全体ではなく機能ごとに異なる規制が適用される可能性があるためだ。
開発者保護と運営主体の責任は別問題
改訂案では、純粋なソフトウェア開発や非カストディ型技術に対する保護と、プロトコルを実質的に支配する運営者への規制を分けようとしている。
法案にはBlockchain Regulatory Certainty Actに関連する規定や、ソフトウェア開発者を保護する条項が含まれている。コードを公開しただけの開発者、ノード運営者、検証者、自己管理型ウォレットの提供者を、顧客資産を扱う金融仲介業者と一律に扱わないことが狙いだ。
一方で、管理者鍵によって取引を停止できる、利用者を選別できる、手数料や重要機能を単独で変更できるといった場合には、単なるコード提供者ではなく運営主体として評価される余地がある。
Uniswap Labsのような開発会社、Uniswapプロトコル、ガバナンス参加者、ウェブインターフェース運営者は同一ではない。Aaveについても、スマートコントラクト、ガバナンス、関連サービスを切り分ける必要がある。今後の米国展開では、管理者権限、フロントエンド制御、アップグレード手順、収益の受取主体を文書化することが重要になる。
信用組合の暗号資産業務を明確化
改訂案は、米国の信用組合がデジタル資産や分散型台帳を利用できる範囲も整理している。
法案文は、連邦信用組合が既存法で認められている業務を、デジタル資産または分散型台帳を利用して提供できることを確認する。さらに、連邦預金保険の対象となる銀行だけでなく、保険付き信用組合や州法に基づく信用組合についても、適用法の範囲内で活動できるよう文言が調整されている。
想定される業務には、暗号資産のカストディ、デジタル資産を担保とする融資、決済、ブローカー関連サービス、ノード運営、自己管理型ウォレットソフトウェアなどが含まれる。ただし、列挙された業務が無条件で解禁されるわけではない。全米信用組合監督庁(NCUA)や州当局には、安全性・健全性や法令違反を理由に監督・執行する権限が残る。
Navy Federal Credit Unionのような大規模信用組合を含め、実際の参入にはNCUAの規則、州法、資本管理、マネーロンダリング対策、カストディ体制の確認が必要だ。CircleのUSDCやCoinbaseの暗号資産サービスと連携する場合にも、銀行との競争条件だけでなく、信用組合固有の法的権限が問題になる。
法案成立への道が依然不透明な理由
条文が技術的に改善されても、成立に必要な政治的合意が形成されたとは限らない。
上院銀行委員会では2026年5月、CLARITY法案が15対9で可決された。その後、銀行委員会と農業委員会の内容を統合した法案文が7月に公開され、8月の交渉を経て今回の修正に至った。しかし、政府高官による暗号資産事業との利益相反、ステーブルコイン保有者への利回り・報酬、マネーロンダリング対策、消費者保護などでは意見の隔たりが残る。
上院で議事妨害を終結させるクローチャーには通常、出席議員の単純過半数より高い賛成水準が必要となる。このため、共和党だけでなく民主党議員からも支持を得られる内容にする必要がある。さらに、上院案が下院通過案から変更されれば、両院で同一文面を成立させる追加手続きも必要だ。
Coinbase、Circle、Uniswap Labsなど米国市場と関係の深い企業・プロジェクトにとって、改訂版は前進ではある。しかし、現段階では事業モデルが確定的に合法化されたとも、新制度の開始日が決まったともいえない。法案、修正案、成立法、施行規則を区別して追う必要がある。
DEX・DeFi利用者と事業者が確認すべきこと
一般利用者にとって、今回の改訂だけでUniswapやAaveの操作方法、ウォレット管理、税務上の扱いが直ちに変わるわけではない。法案は審議中であり、成立後も規制当局による具体的なルール策定が必要になる。
事業者は、プロトコルの管理権限、顧客資産の保管、米国利用者向け画面、現物とデリバティブの区分、手数料収入の主体を点検したい。特に「分散型」という宣伝表現と、実際の管理構造が一致しているかが重要だ。
トークン保有者は、法案の進展だけを根拠に売買を判断すべきではない。CLARITY法案は市場インフラの法的枠組みに関するもので、UniswapのUNI、AaveのAAVE、Circleに関連するステーブルコインなどの価格や収益を保証するものではない。
まとめ
CLARITY法案の改訂版は、中央管理性を残すDeFiへのCFTC登録、DeFi規定の現物・キャッシュ市場への限定、信用組合の暗号資産業務の権限明確化という三つの調整を加えた。
これはUniswapやAaveなどのDeFiにとって重要な制度設計だが、すべてのプロトコルを同じように規制する内容ではない。コード、ガバナンス、運営会社、フロントエンド、資産管理の実態によって扱いが分かれる可能性が高い。
一方、利益相反、ステーブルコイン報酬、違法金融対策などの政治的争点は残っている。読者や事業者は今回の文書を成立済みの法律と誤解せず、上院での審議、下院との調整、最終法案、SEC・CFTC・NCUAの施行規則を継続して確認する必要がある。





