ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨に連動する価値を目指し、ブロックチェーン上で移転できる暗号資産です。CoinbaseとThe Block Pro Researchの調査は、平均で毎時4億ドル超が移転され、調査対象額の73%が米国の銀行営業時間外に動いたと報告しました。
結論は、ステーブルコインが単なる暗号資産取引の待機資金ではなく、週末や国境をまたぐ「常時稼働の決済手段」として使われ始めているということです。ただし、送金量は利用者数や実需をそのまま表す指標ではなく、発行体、チェーン、スマートコントラクトに固有のリスクもあります。
CoinbaseとThe Blockの調査が示したこと
The Blockが2026年10月20日に報じたのは、Coinbaseの依頼でThe Block Pro Researchが実施した「The Always-On Dollar」という調査です。Coinbaseの公式発表によると、ステーブルコインの移転は平均で毎時4億ドルを超え、調査対象となった移転額の73%が米国の銀行営業時間外に発生しました。
この73%は、Dune Analyticsを用いて2026年8月時点の時間帯別データを分析した結果です。1ドル未満の移転、自己送金、発行と償還は除外する一方、自動化された取引は含まれます。したがって「世界の個人や企業による支払いの73%」という意味ではありません。それでも、銀行窓口や従来型の決済網が閉じる時間帯にも、USDCなどのオンチェーン資産が継続して動いている事実は、24時間決済への需要を示す材料になります。
具体例として、金曜午後に受け取った給与の一部を週末前に海外へ送りたい人や、時差のある取引先へ出荷前の代金を支払う企業が挙げられます。従来の銀行送金では翌営業日まで処理が進まない場合でも、対応チェーン上のUSDCであればネットワーク自体は停止しません。もっとも、受取人が現地通貨へ換える工程や取引所の入出金は、別途営業時間、審査、流動性の制約を受けます。
2027年1.5兆ドルは実績ではなく条件付き試算
調査では、自動取引やボット活動を調整した四半期移転額が2026年第3四半期に8,910億ドルへ達し、2023年初めから4倍超に拡大したとされています。現在の成長率が続く場合、2027年末には四半期約1.5兆ドルへ達するペースだという見立ても示されました。
重要なのは、1.5兆ドルが確定した将来実績ではない点です。Coinbase自身も、モデルによる推計は実現済みの成果や確定予測ではなく、前提条件に基づく潜在的な結果だと注記しています。規制、金利、発行体への信頼、チェーン手数料、取引所の対応状況が変われば、伸び方も変わります。
また、「移転額」と「決済された商品の販売額」は同義ではありません。同じUSDCが取引所、ブリッジ、Uniswapの流動性プール、Aaveの貸借市場を順番に移動すれば、その都度オンチェーン移転として観測され得ます。ニュースの数字を読む際は、総移転額、調整済み移転額、実際の商取引額、ユニーク利用者数を分けて考える必要があります。
USDCの仕組みと24時間送金の境界
代表的な法定通貨担保型ステーブルコインのUSDCについて、発行元Circleは、高流動性の現金・現金同等資産で全面的に裏付け、米ドルと1対1で償還可能と説明しています。準備資産の大半は、SEC登録の政府系マネー・マーケット・ファンドであるCircle Reserve Fundに保有され、残りは主に銀行預金として管理されます。
ここで区別すべきなのは、ブロックチェーン上の移転と、発行体を通じた法定通貨への償還です。BaseやEthereumでUSDCを相手のアドレスへ送る処理は常時実行できますが、銀行口座への着金、本人確認、対応地域、提携事業者の処理まで常に即時とは限りません。
さらに、USDCと名称が似ていても、異なるチェーン上の非公式なラップ資産やブリッジ経由トークンは、Circleが直接発行するネイティブUSDCとリスク構造が異なる場合があります。送金前には、コントラクトアドレス、利用チェーン、受取側の対応規格、償還経路を確認することが実務上の基本です。少額のテスト送金を挟む方法も、アドレスやネットワークの選択ミスを減らすうえで有効です。
UniswapなどDEXへの影響
Uniswapは、中央集権的な注文板ではなく、スマートコントラクト上の流動性プールを使ってトークンを交換するDEXです。USDCのようなステーブルコインが銀行営業時間外にも移動すれば、利用者は資金を取引所へ預け直さず、対応ウォレットからオンチェーン市場へ接続できます。夜間や週末にも、USDCと他の暗号資産を交換できる点は、常時決済とDEXが接続する具体例です。
ただし、ネットワークが24時間動くことと、望む価格で必ず取引できることは別問題です。Uniswapの交換価格はプール内の資産量や取引規模に左右されます。流動性が薄い時間帯には価格への影響が大きくなり、設定したスリッページ許容幅を超えて取引が失敗することもあります。偽トークンや誤ったコントラクトを選ぶ危険も残ります。
Uniswap上で複数のステーブルコインを交換する場合も、各トークンが同じ価値を維持できることが前提になります。発行体への信用不安やブリッジ障害で連動が崩れれば、見かけ上は「ドル同士」の交換でも損失が生じ得ます。時間外送金の増加はDEXの利用機会を広げますが、流動性と資産の質を自動的に保証するものではありません。
AaveなどDeFi貸借市場への波及
Aave v3では、利用者がUSDCなどの対応資産を供給し、利息を得たり、供給資産を担保に別の資産を借りたりできます。Aaveの公式資料では、貸し手の利回りは借り手の利息を基礎とし、出金は未貸出の流動性や借入ポジションの担保状況に左右されると説明されています。
24時間移転できるステーブルコインは、企業や個人が受け取った資金をAaveのような市場へ移し、オンチェーンで運用・担保利用する流れを作りやすくします。一方、預ければ常に元本と利息を即時回収できるわけではありません。プールの利用率が高ければ出金可能な流動性が減り、借り手は担保価格の下落や負債の増加によって清算される可能性があります。Aave v3ではヘルスファクターが1を下回ると清算対象になります。
ステーブルコイン同士でも安全性は一様ではありません。USDCのような発行体管理型、AaveのGHOのようなDeFiプロトコル由来、ブリッジ経由資産では、準備資産、発行・償還、ガバナンス、スマートコントラクトのリスクが異なります。利回りだけを比較せず、「誰が価値を支え、どの経路で償還でき、障害時に何が起きるか」を確認する必要があります。
利用者が確認したい実務上のポイント
第一に、送金目的と最終出口を先に決めます。海外の取引先がUSDCを直接受け取るのか、Coinbaseなどの取引所を介して法定通貨へ換えるのかで、必要なチェーンと手数料、本人確認が変わります。受取側がBaseに対応せずEthereumだけに対応する場合、安さだけで送付先ネットワークを選ぶと資金を回収できないおそれがあります。
第二に、トークンの発行体と真正性を確認します。Circleの公式情報、取引所の入出金画面、Uniswapで表示されるコントラクトアドレスを照合し、名称やロゴだけで判断しないことが重要です。第三に、Aaveへ供給する場合は、金利だけでなく利用率、出金可能性、担保設定、清算条件を確認します。
第四に、会計と規制対応です。オンチェーンでは週末でも決済できますが、企業の帳簿、税務、制裁対応、取引相手の確認義務が消えるわけではありません。決済時点の記録、ウォレットの管理権限、秘密鍵のバックアップ、誤送金時の対応手順を整備してから利用範囲を広げるべきです。
まとめ
CoinbaseとThe Block Pro Researchの調査は、ステーブルコインが米国の銀行営業時間外にも大規模に移転され、24時間型のドル決済手段として存在感を増していることを示しました。2026年第3四半期の調整済み移転額と2027年の試算は成長を示す一方、移転額をそのまま商取引額や利用者数とみなすことはできません。
Uniswapの交換、Aaveの貸借、CircleのUSDC発行・償還は、同じステーブルコイン経済圏でも役割が異なります。実務では、発行体、チェーン、流動性、コントラクト、償還経路、清算条件を分けて確認することが重要です。24時間動く利便性を活かすには、従来金融の営業時間制約が減る一方で、オンチェーン特有の自己管理責任が増える点まで理解する必要があります。





