dex.jp
トランプ氏がCLARITY法案の厳格な倫理規定を受け入れた理由
米国暗号資産規制·7分で読める

トランプ氏がCLARITY法案の厳格な倫理規定を受け入れた理由

SSatoshi.K(dex.jp編集部)公開日: 2026-09-15

📋 この記事のポイント

  • 1米暗号資産市場構造法案CLARITY Actを巡り、トランプ大統領が厳格な倫理規定を受け入れた背景と、業界が成立へ期待を強める理由、今後の採決手続きを解説します。
ポストLINE

CLARITY Actは、米国の暗号資産市場についてSECとCFTCの役割を整理し、取引所やDeFiに連邦レベルの規制枠組みを設ける法案だ。 トランプ大統領が自身にも影響し得る厳格な倫理規定を受け入れたのは、超党派の賛成票を確保しなければ法案を前進させられないためである。 ただし、2026年9月15日に予定されるのは最終可決ではなく、審議を進めるための重要な手続き採決だ。

CLARITY Actとは何を変える法案なのか

CLARITY Act(Digital Asset Market Clarity Act)は、暗号資産が証券に当たるのか、商品として扱われるのかという米国市場の長年の不確実性を減らすことを目的としている。

法案の中心は、デジタル商品とその仲介業者に対する商品先物取引委員会(CFTC)の権限を明確にしつつ、投資契約を通じた資金調達などについて証券取引委員会(SEC)の権限を残すことだ。下院版のH.R.3633では、デジタル商品取引所、ブローカー、ディーラーの登録制度や顧客資産保護も盛り込まれた。

この区分は、CoinbaseやKrakenのような中央集権型取引所だけでなく、Uniswapなどの分散型プロトコルにも関係する。上院の更新案は、名称上はDeFiでも実際には特定の人物や組織が管理しているプロトコルについて、CFTC登録や銀行秘密法上の義務が必要となる条件を追加した。一方、対象となるDeFi規定は現物・現金のデジタル商品取引に限定されている。

したがって本法案は、単に「暗号資産を合法化する」ものではない。どの事業者が、どの規制当局の下で、どのような顧客保護やマネーロンダリング対策を負うのかを再設計する市場構造法案である。

最大の障害になったトランプ氏の暗号資産事業

法案交渉を難しくしたのが、トランプ氏と家族の暗号資産事業を巡る利益相反問題だった。代表例には、公式ミームコインの$TRUMPや、分散型金融プロジェクトWorld Liberty Financialがある。

民主党議員の一部は、大統領を含む公職者が暗号資産政策を決定しながら、自ら関係するトークンや事業から経済的利益を得られる状態では、市場構造法案への支持は困難だと主張してきた。共和党のトム・ティリス上院議員も、実効性のある倫理規定が最終案に含まれなければ支持できないとの立場を示していた。

従来案には、連邦選挙で選ばれた公職者、その配偶者、連邦裁判官などが在任中にデジタル資産を発行・支援することを制限する規定があった。しかし、既存事業から得る利益の扱いや、違反時の執行を司法省だけに委ねる設計には不十分との批判が残った。

特にWorld Liberty Financialのような既存事業については、新規トークン発行を禁止するだけでは利益相反を解消できない可能性がある。そこで議論は、公職者が保有する重要な暗号資産関連事業の持分と、規則を誰が執行できるかという問題へ移った。

トランプ氏がより厳しい倫理規定を受け入れた理由

Decryptの報道によると、法案推進派は、倫理問題を解決しなければ9月の採決に必要な票を集められないと判断していた。トランプ氏が譲歩した最大の理由は、倫理規定そのものへの政策的な賛同というより、CLARITY Actを成立させるための現実的な票読みだったと考えられる。

AP通信が共和党側の説明として報じた更新内容には、暗号資産を発行する事業体への「重要な」経済的利害について、売却するかブラインドトラストへ移すことを求める仕組みが含まれる。また、司法省に加えて州司法長官にも「意味のある役割」を認める方向が示された。

州司法長官への権限付与は重要だ。司法省だけが執行主体であれば、現職大統領が任命した司法長官に大統領自身の関係事業を監督させる構造となる。民主党側は、これでは独立した執行を期待できないと批判していた。一方、ホワイトハウス側には、州司法長官が党派的な目的で制度を利用するのではないかという懸念があった。

共和党側関係者は、トランプ氏がティリス議員と民主党のルーベン・ガレゴ上院議員による提案の大部分を受け入れたと説明している。ただし、「重要な経済的利害」の定義、州司法長官が提訴できる具体的条件、World Liberty Financialなど既存事業への適用範囲は、最終的な法文と今後の解釈を確認する必要がある。

暗号資産業界が成立へ期待を強める理由

Coinbase、Ripple、Kraken、a16z cryptoなどの業界関係者が成立可能性に期待する理由は、最大の政治的障害だった倫理問題でホワイトハウスが譲歩したからだ。

上院で法案審議を前進させる手続き採決には、通常、単純な党議拘束だけでは足りない票が必要になる。共和党だけで確実に処理できないため、ガレゴ議員、アンジェラ・アルソブルックス議員など暗号資産政策に比較的前向きな民主党議員の協力が重要となる。倫理規定の強化は、その協力を得るための条件だった。

法案はすでに上院銀行委員会を超党派で通過しており、完全な党派法案ではない。さらに、更新案には民主党側から求められた修正が多数反映されたと、法案を主導するシンシア・ルミス上院議員は説明している。管理型DeFiへの登録義務、信用組合の暗号資産業務に関する明確化など、倫理規定以外の論点でも調整が進んだ。

業界にとっては、SECによる個別執行を中心とした不安定な環境より、CoinbaseやUniswapなどが事前に適用ルールを判断できる法制度の方が事業計画を立てやすい。米国内での商品設計、トークン上場、カストディ、DeFiインターフェース運営について、登録先と責任範囲が明確になることへの期待が大きい。

9月15日の採決は最終可決ではない

米上院Daily Pressによると、H.R.3633に関するクローチャー動議は2026年9月15日午後2時15分に採決可能な状態となる。クローチャーは討論を終結させ、法案審議を前へ進めるための手続きであり、この採決だけでCLARITY Actが成立するわけではない。

可決された場合も、その後に追加の討論、修正案への対応、本会議での最終採決が残る可能性がある。上院案と下院を通過したH.R.3633の内容に相違があれば、両院が同一文面を承認し、最終的に大統領が署名する必要がある。

そのため「トランプ氏が倫理規定に同意したので成立が確定した」と理解するのは早い。民主党議員が新しい規定を十分と評価するか、DeFi、投資家保護、マネーロンダリング対策、ステーブルコイン報酬などの残る争点で合意できるかが焦点となる。

DEX利用者やDeFi開発者にとっては、採決結果だけでなく最終法文が重要だ。例えばUniswapのような非カストディ型プロトコルと、管理者が取引条件を変更できるフロントエンドや取引サービスが、どの基準で区別されるかによって実務上の影響は大きく変わる。

法案成立でも残る実務上の注意点

CLARITY Actが成立しても、SECとCFTCによる規則制定や登録制度の実装には追加作業が必要となる。CoinbaseやKrakenが直ちにすべてのトークンを同じ基準で扱えるようになるとは限らず、各資産の発行方法、ネットワークの成熟度、運営主体の支配状況などが審査対象になり得る。

DeFi分野では、Uniswapのスマートコントラクト、プロトコルを操作するウェブ画面、開発会社、DAOが、それぞれ同一の法的主体として扱われるとは限らない。法案が非カストディ型ソフトウェア開発者を保護しても、実質的に取引サービスを管理する運営者には別の義務が課される可能性がある。

倫理規定についても、$TRUMPやWorld Liberty Financialへの影響を判断するには、対象となる持分、発行・支援の定義、ブラインドトラストの要件、執行主体の権限を最終法文で確認する必要がある。政治的合意の発表と、実際に執行可能な法律は同じではない。

投資家は、法案前進のニュースだけを理由に特定トークンの価値上昇を前提とすべきではない。規制の明確化は米国での事業環境を改善し得る一方、登録義務や顧客保護規則の強化によって、一部サービスの提供方法が制限される可能性もある。

まとめ

トランプ氏がCLARITY Actの厳格な倫理規定を受け入れた背景には、$TRUMPやWorld Liberty Financialを巡る利益相反問題を解消しなければ、上院で必要な超党派票を確保できないという政治的事情がある。

Coinbase、Ripple、Krakenなどの暗号資産業界が成立へ期待を強めているのは、最大の障害だった倫理問題で譲歩が成立し、委員会段階から続く超党派交渉が前進したためだ。ただし、9月15日のクローチャー採決は最終可決ではない。

今後は、州司法長官の執行権限、重要な暗号資産関連持分の売却・信託要件、管理型DeFiの登録基準を含む最終法文を確認する必要がある。CLARITY Actの本当の影響は、法案名ではなく、UniswapなどのDeFi、中央集権型取引所、公職者の暗号資産事業に各条文がどう適用されるかによって決まる。

ポストLINE

関連記事